ハイレゾ音源
このコラムの執筆者は弊社製品の開発者であり、代表の横田です。オペアンプOPアンプNFBUSB-DACハイレゾ音源USB-DACハイレゾ音源USB-DAC
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オペアンプとNFB

コラム2ではオーディオを理解するには欠かせない、オペアンプやNFB技術について、解説していきたいと思います。オペアンプを理解するには、NFB理論を知っておく必要があります。詳細は↓に書いてありますが、ここでは要点を抜粋していきたいと思います。
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オペアンプとNFB

アンプを構成するトランジスタや真空管などの増幅デバイスは、非線形素子であるため、大きな歪や雑音が付加され、信号劣化が生じます。こうした信号劣化を防ぐために発明されたのがNFBです。NFBを実現する方法は色々ありますが、一般的な方法は、オペアンプにNFB回路を組み合わせることです。オペアンプは下図のように2つの入力と(差動入力と呼ぶ)、1つの出力を持ち、2つの入力の差分を、数千~数千万倍に増幅して出力します。この増幅度をオープンループゲインと呼びます。通常はオペアンプは集積回路(IC)として設計されますが、デュスクリート回路(トランジスタや、ダイオード、抵抗、コンデンサなどの個別部品を組み合わせる)でも製作可能です。

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NFBは、オペアンプの出力を、簡単な抵抗分圧回路で1/Nに減衰させ、-入力にフィードバック(帰還)します。NFBを掛けた後の増幅度をクローズドループゲインと呼び、クローズドゲインは、NFB(帰還回路)の減衰量1/Nの逆数となります。例えばNFBの減衰量が1/3であればクローズドループゲインは3倍です。そしてNFBを掛けたオペアンプは、オープンループゲインが高いほど、-入力と+入力の波形が一致するよう働きます。
減衰量が1/3のNFBなら、出力端子の増幅度が3倍でないと、±入力は相似にならないので、自動的にゲインが3倍になるのです。もし歪成分が発生して、ゲインが3倍から2倍に低したりすると±入力が相似になりませんから、すみやかにゲインが3倍になるよう動作します。この補正量はオープンループゲインの大きさに比例し、オープンループゲインが高いほど、入出力は相似関係になり、歪、雑音をはじめとする様々な信号劣化要素を、一括して改善することができるのです。
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歪みの予測・除去はうまくいかない

NFB以外に、歪を軽減する回路としては、予測による方法があります。あらかじめ逆歪みをつくっておき、歪みをキャンセルする方法(リニアライザ)、入出力の差分(歪成分)をとって出から差し引く方法(フィードフォワード)など方法は様々です。しかし歪成分(非線形)は温度や周波数で刻々と変動するため、リニアライザで、これらを打ち消すことは困難です。またフィードフォワードでは差分回路に数%の誤差が生じるので(出力を入力レベルに合わせるための減衰回路の誤差)、歪成分の抽出に誤差があり、NFBのように数万分の1にまで歪率を軽減することはできません。いずれも打ち消し回路自体に高い精度が要求されますが、現実には温度や経年変化などから、精度を維持することは困難です。

NFBなら高精度の部品なしに、安定した性能が得られる

これに対してNFBでは、常に入出力を相似に保つよう自動補正するだけのシンプルな仕組であり、部品のバラツキや、温度、経年変化などの影響を殆ど受けません。結果、安定して高い性能を維持することができるオペアンプとNFBの組み合わせは、アナログ増幅回路のデファクトスタンダード(標準)となり、産業機器、医療機器、軍事、玩具、通信、情報家電など様々な分野に導入されていきました。

電流振幅低減=歪低減

半導体や真空管は、入力信号電圧に応じて動作電流が変化します。この変化量を電流振幅と呼びます。下図は、トランジスタの入出力特性で、一般的には、横軸が入力電圧、縦軸が出力電流です。理想は直線ですが、実際には下図のように、大きな非線形性があり、歪が発生し、音質が悪化します。

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ところが非線形素子でも、電流振幅を大幅に減らすことができれば、限りなく線形とみなすことができ、歪が激減します。例えばオペアンプのように、高ゲインのアンプなら、微小な電流振幅で十分な出力電圧を得られますから低歪になります。NFBなしに微小電流振幅を実現するには、入力電圧を極端に小さくして、高ゲインのアンプで増幅しなければなりません。しかし、この方法では、入力オフセット電圧(アンプ自信から発生する数ミリボルトの直流の入力端子電圧、電圧はばらつく上、温度や電源電圧、入力のコモンモード電圧などで変動する)が高いゲインで増幅され、動作点は不安定となり、まともには動きません。なんとか動かしたところで、入力電圧が小さいのでS/N比がよくありません。オペアンプにNFBを組み合わせれば、巨大なオープンループゲインは、NFBループに閉じ込められ、こうした問題が解消されます。言い換えると、電流振幅を決定するオープンループゲインと、電圧振幅を決定するクローズドループゲインが分離します。クローズドループゲインの支配を受けるのは、入力電圧や入力オフセット電圧などで、入力電圧は大きくすることができ(高S/Nになる)、オフセット電圧の増幅度は低く抑えられ動作点は安定します。一方、オープンループゲインの支配を受けるのは電流振幅で、高いゲインゆえに微小振幅とすることができ、歪率が激減します。

  • NFBは電流振幅と電圧振幅を分離する
  • 電流振幅はオープンループゲインに支配されるので、NFBは増幅回路の微小電流振幅を実現する。
  • 非線形な半導体であっても、微小電流振幅であれば線形にみなすことができる
  • 電圧振幅はクローズドゲインに支配され、オフセット電圧などの影響が軽微となる

性能改善の度合い

オープンループゲイン(Ao)を、クローズドループゲイン(Ac)で除算した値を、帰還量(β=Ao÷Ac)と呼び、帰還量の大きさに比例して歪や雑音が小さくなります。例えば、オープンループゲインが10,000倍、クローズドループゲインが10倍であれば、帰還量は10,000倍÷10倍=1,000倍となり、オペアンプ内部で発生した歪や雑音は1/1,000になります。オペアンプで扱う数値はとても大きいので対数に変換して表記します。例えば100倍は20×log10(100倍)で40dBになり、前述の例であれば、オープンループゲイン80dB、クローズドループゲイン20dB、帰還量60dBになります。

発振の条件と位相補償

NFBは出力信号を入力に戻すわけですから、設計を誤ると、マイクのハウリングのように、入出力間を信号が無限に巡回(ループ)する発振を起こし、正常動作ができなくなります。下図はオープンループゲイン、クローズドループゲインと周波数の関係を示したもので、縦軸がゲイン、横軸が周波数です。”D”のゲインが低下し始める周波数をドミナントポールと呼び、これより高い周波数では1オクターブ毎にオープンループゲインが半減し、高域ほど帰還量が減少し性能が悪化します。NFBを掛けた後のクローズドループゲインは”B”です。オープンループのカーブと、クローズドループゲインのカーブの差が帰還量に他なりません。そしてオープンループゲインと、クローズドループゲインが交わる箇所”C”をゲイン交点と呼びます。ゲイン交点の周波数相当の時間をtdとした場合、オペアンプの入出力遅延時間が、td/3以下であれば発振しません。例えばゲイン交点の周波数が1MHz(1μsec)なら、0.333μsec以下の遅延時間なら発振しません。もしゲイン交点”C”で発振する場合、対策方法は主に以下のいずれかです。

 ①遅延時間をゲイン交点時間の1/3以下に減らす
 ②ゲイン交点時間を遅延時間の3倍に増やす

②の方法を位相補償と呼びます。”C”のゲイン交点周波数をEに下げることで、ゲイン交点周波数相当の時間を、遅延時間を3倍以上に増やして発振を止めるのです。

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この様子を波形で確認してみます。青実線は入力信号、黒破線は出力、赤矢印線の長さは、遅延時間を表します。波形の周期はゲイン交点の周波数に相当します。まず下図Aはtd/4程度なので、td/3以下の条件に合致し発振しません。次に下図Bですがtd/2程度なので発振します。下図Cは下図Aと同程度の遅延時間ですが下図Cの波長が短い(ゲイン交点周波数が高い)ので発振します。

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GB積の重要性

発振を防ぐには、ゲイン交点周波数を低く設定すればよいのですが、それでは帰還量が減少し性能が悪化します。下図では実線の特性で発振するので、ゲイン交点を”E”にしてドミナントポール以上のオープンループゲインを点線のカーブに下げた例です。しかしドミナントポール以上の周波数において帰還量が減少し性能が悪化します。ゆえに位相補償だけに頼るのでなく、回路の遅延時間を減らして、ゲイン交点を高く保つべきです。オペアンプの遅延時間の大小を比較する上で、重要な要素がGB積です。GB積はクローズドループゲインを1倍(0dB)に固定した時のゲイン交点周波数で、GB積が大きいほど、遅延時間・位相補償ともに小さいことを意味します。GB積の大きなオペアンプは、広い周波数で大きな帰還量を維持することができ高性能です。当然アンプに要求される遅延時間は短く、設計は過酷になります。以降、オペアンプをほぼ年代順に解説しますが、その進化の歴史は、遅延時間の軽減にあると言えます。また遅延時間の軽減=高速化は消費電流の増大、オフセット電圧やオフセット電流の増大に繋がるので、消費電流の軽減も進化の重要な要素です。
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DCゲインの重要性

GB積さえ大きければ高帰還=高性能になるとは限りません。ドミナントポールより低い周波数のオープンループゲインはDCゲイン依存するからです。下図AはGB積が大きくDCゲインの小さいオペアンプ、下図BはGB積は小さく、DCゲインの大きいオペアンプです。オーディオ帯域を赤縦線とすれば、下図BのGB積の小さいアンプのほうが、オーディオ帯域の帰還量が大きく高性能です。つまり高帰還を達成するには、DCゲインの大きさも重要です。下図AのようにGB積が大きく、DCゲインの低いオペアンプは、ビデオ用や、通信用、高速のデータ収集用を中心に製品化されており、数MHz~数十MHzを扱うことができます。しかしオーディオ帯域では帰還量が足りず音質は優れません。

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裸特性

GB積とDCゲインの大きさは、アンプの性能を決定付けます。だからといって、内部の回路構成がどうでも良いというわけではありません。NFBをかける前の諸特性が高性能であるほど、同じ帰還量でも優れた性能を達成できるからです。NFBをかける前の特性を一般には裸特性と呼んでいます。現在の科学技術では20KHzの帰還量は80dB~90dB程度(1万分の1~3万分の1)が限界であり、歪率100%の裸特性では0.01%の歪率になります。多数のアンプが使われれば、性能はそれだけ悪化します。これに対して、16Bitのデジタルソースの分解能は15.26ppmであり、アンプに求められる分解能はその1/2以下、即ち7.63ppmになります。DAC~パワーアンプまでに必要なアンプは5段程度ですから、1つのアンプに許される分解能(歪率、雑音)は1.53ppmです。このような目標を達成するには、裸特性も改善する必要があります。

NFBの効果

NFBの効果1:逆起電力による残響の低減

スピーカーは発電機と同じ構造で、アンプが出力した電力はスピーカーを動かすとともに、その反作用で発電しながら再びアンプに逆戻りします。逆戻りする電流はスピーカーを動かしたときの反作用ですから、歪んだ音楽信号そのものです。これを逆起電力と呼び、アンプとスピーカーの間を、歪んだ音楽信号が何往復もすることで残響が発生し、音を濁します。逆起電力の影響を軽減するには、アンプの出力インピーダンスを下げることが有力です。そしてアンプの出力インピーダンスは、帰還量が大きいほど、小さくなるため、NFBが大きいほど逆起電力が減衰します。実際にシュミレーションしてみます。GB積・内部の回路構成の同じ、DCゲイン75dBのアンプと、DCゲイン9dBのアンプを、それぞれクローズドループゲイン0dBで運用し、2つのアンプの出力を50Ωで結合します。そしてDCゲイン9dBのアンプには1KHz2Vp-p、DCゲイン75dBのアンプには5KHz2Vp-pを印加します。この時のアンプの出力波形を下図に示します。上が、DCゲイン9dBのほうの波形、下はDCゲイン75dBの波形で、入出力を重ね書きしています。DCゲイン9dBの、低帰還のほうは、負荷から逆流する5KHzを阻止できず、出力が歪んでいます。しかしDCゲイン75dBの波形は入出力がほぼ一致しており、負荷から逆流する1KHzの信号を阻止できています。この負荷から逆流する信号は、逆起電力に他なりません。これまで、NFBアンプは逆起電力に弱いとする一部の理論がありましたが、実際に実験してみると、まったくの逆で、NFBは逆起電力の影響を排除するのです。

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NFBの効果2:電圧性雑音の低減

オペアンプの内部に1Vp-pの電圧雑音源を挿入した、同じ回路構成の3つのオペアンプで雑音の軽減効果を確認してみます。1KHzのオープンループゲインは69.4dB、72.7dB、75dBで、入力振幅は0Vです。雑音振幅、雑音抑圧比は以下の通りです。

 オープンループゲイン69.4dB ⇒ 雑音424.4μV ⇒ 雑音抑圧比67.4dB
 オープンループゲイン72.7dB ⇒ 雑音211.1μV ⇒ 雑音抑圧比73.5dB
 オープンループゲイン75.0dB ⇒ 雑音104.7μV ⇒ 雑音抑圧比79.6dB

帰還量(オープンループゲイン)に比例してが雑音が減少しています。そして雑音抑圧比はほぼ帰還量に近い値になっており、帰還量だけ雑音や歪性能が改善されるというNFB理論の正しさを裏付けています。ちなみに無帰還では1Vp-pの雑音は減衰されず、そのまま出力されます。

NFBの効果3:電流性雑音の軽減

下図で示したような3種類のオープンループゲインのアンプの内部(電圧増幅段の負荷)に、10KHz 2μAp-pの電流性雑音を印加します。電流性雑音はオペアンプ内部で電圧雑音に変換され出力に現れます。結果は以下の通りで、帰還量が大きいほど、出力に漏洩する雑音が低減していきます。高帰還アンプは電流振幅が小さいので、電流性雑音には弱いと言われてきましたが、実際に実験してみると全く逆であることが分かります。

ハイレゾ3種のオープンループゲインオペアンプNFBオペアンプHD音源192KHzサウンドカードオペアンプオペアンプNFBMOS-FETオペアンプOP-AMP176.4KHZサウンドカード176.4KHZMOS-FETOP-AMPMOS-FETOP-AMPHD音源192KHz
ハイレゾ出力雑音オペアンプNFBオペアンプHD音源192KHzサウンドカードオペアンプオペアンプNFBMOS-FETオペアンプOP-AMP176.4KHZサウンドカード176.4KHZMOS-FETOP-AMPMOS-FETOP-AMPHD音源192KHz

NFBの効果4:ダイナミックレンジの改善=微細な音の再現性が優れる

下図は、オペアンプに2pVの信号を入力したものです。高帰還アンプでは2pVの微小信号を再現しているのに対し、低帰還アンプでは残留雑音が6倍以上になって2pVの微小信号が消失しています。NFBアンプは微細な信号を消し去ってしまうのではないかと懸念する方もおられましたが、実際に実験してみると、まったくの逆で、帰還量が大きいほど、内部残留ノイズは減少し、ダイナミックレンジが拡大するのです。低帰還・無帰還のアンプで微細な信号と思われていたものは、歪みや雑音などの原音にない不要成分で、高帰還とすることで、これらが無くなって静かになったに過ぎないのです。

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NFBの効果5:歪の低減

歪みには色々なものがありますが、NFBはその全てに効果があります。ここでは、音質への影響が大きい混変調歪を調べてみます。混変調歪は、周波数の差分で生じる歪で、音楽ソースでは多くの周波数スペクトルが含まれており、より多くの混変調歪が発生します。下図は、18KHz、19KHz、20KHzの4Vp-p信号を、抵抗で加算して、DCゲイン79dBと8dBのアンプに印加した周波数スペクトルです。DCゲイン79dBの高帰還のほうは、-110dBのノイズフロアまで周波数スペクトルが生じておらず、混変調歪は無視できるレベルです。DCゲイン8dBのほうは原信号にはない沢山のスペクトルが現れており、音質が悪化しています。

ハイレゾ高帰還アンプの混変調歪オペアンプNFBオペアンプHD音源192KHzサウンドカードオペアンプオペアンプNFBMOS-FETオペアンプOP-AMP176.4KHZサウンドカード176.4KHZMOS-FETOP-AMPMOS-FETOP-AMPHD音源192KHz
ハイレゾ低帰還アンプの混変調歪オペアンプNFBオペアンプHD音源192KHzサウンドカードオペアンプオペアンプNFBMOS-FETオペアンプOP-AMP176.4KHZサウンドカード176.4KHZMOS-FETOP-AMPMOS-FETOP-AMPHD音源192KHz

NFBの効果6:安定性の改善

NFBがない場合、温度変化や経年変化で、回路の動作点が刻々と変化し不安定です。NFBを掛けると動作点が安定し、出力に漏れるオフセット電圧などが軽減します。下図はDCゲイン70dBと53dBの回路で、クローズドループゲイン20dB、入力0Vとし、温度を0℃~80℃まで10℃づつ変化させた場合の、出力電圧の解析結果です。DCゲイン70dBの出力波形は1℃の温度変化で、0.11mVしか変化しないのに対し、DCゲイン53dBの出力波形は、1℃で0.68mV/℃も変化します。

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NFBによって改善しない要素:電源変動抑圧比

NFBは万能ではありません。電源雑音の抑圧比は、電源変動抑圧比と呼ばれ、帰還量の大小に関わらず、PSRRは無帰還状態と変わりません。マイナス側の電源に1KHz100mVの雑音源を追加し、DCゲインを82dB、70.5dB、32dBに変化させたアンプの出力波形を確認すると、出力に漏洩する雑音は変化しませんでした。このように、電源変動抑圧比は帰還量の影響を殆ど受けません。

NFBによって改善しない要素:NFB回路の歪・雑音

NFB回路に非線形線分があると、オペアンプはその非線形を矯正しようとして、NFB回路の逆特性の非線形を生成しようとします。これによって、-入力の非線形は相殺されますが、オペアンプの出力ではNFB回路の逆特性の非線形が発生してしまいます。このようにNFB回路に非線形成分(歪や雑音)があると、出力にはそれらを反転した非線形成分が現れます。

NFBによって改善しない要素:入力の歪・雑音

オペアンプの入力インピーダンスが信号電圧などで変調すると歪が発生します。しかし入力電圧そのものが歪んでしまっているので、これらの歪は軽減できません。雑音についても同様です。

半導体ベンダは低帰還に見向きもせず

最近のAV機器、オーディオ機器では、オペアンプが多用されるようになりました。オペアンプを使う限り、高帰還回路以外の選択肢はありえず、もはやNFB議論も最近は下火です。また、オペアンプを製造する半導体ベンダの中に、NFBに問題があるとして、低帰還化を進めようという企業もありません。

オペアンプの優劣、使いやすさなどを評してみる

優れたオペアンプとは以下のような用件を満たすものです。これらの観点をベースにオペアンプの解説をしていきたいと思います。

GB積が大きい

広域で大きな帰還量を確保できます。中高域の雑音歪率を左右します。

DCゲインが高い

中低域で大きな帰還量を確保できます。中低域の雑音歪率を左右します。

電源変動抑圧比(PSRR)が高い

電源変動抑圧比は、NFBで改善しません。このファクターはS/N比とチャンネルセパレーションを左右します。

入力バイアス電流・入力オフセット電圧が小さい

値が大きいと、信号経路に歪みの大きなコンデンサを入れる必要があります。他にも操作時のショックノイズが大きくなったり色々な弊害があります。

スルーレートが大きい

値が小さいと、高域の歪率と最大振幅が悪化します。オーディオ帯域は周波数が低いので、さほど重要ではありません。

データについて

以降、色々なオペアンプの解説をしていきますが、データはtypical、±15Vにおける数値とします。オフセット電圧にグレードがある場合、最も安価なグレードのスペックを記載します。入力バイアス電流はIib、入力オフセット電圧はVio、スルーレートはSRW、電源変動抑圧比はPSRR、消費電流はIsの略称を使います。PSRRは10KHzの値で+電源と-電源の悪いほうを表記します。Iibは、FETオペアンプでは温度で大きく変動するので25℃における値とします。Isはデュアル・クワッドタイプなどでは1アンプあたりの値です。

μA741~TL07X

μA741

GB積1MHz、DCゲイン106dB、Iib=200nA、Vio=1mV、SRW=0.5V/us、PSRR10KHz不明、Is=1.7mA

それ以前にもオペアンプはありましたが、1968年に発表されたμA741で採用された回路デザインは、今日多くのオペアンプで使われ続けています。それだけ先進的・画期的なオペアンプでした。内部の回路構成は以下の通りです。

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全体: 2段増幅・ミラー積分位相補償・出力段は利得1のバッファ・動作電流は全て定電流回路で生成
初段: 差動入力回路・能動負荷を導入
2段目: ダーリントン構成・能動負荷を導入・ミラー積分型位相補償
3段目: エミッタフォロワー+コンプリメンタリSEPP回路による2段ダーリントン、短絡保護回路

大部分の利得を2段目で稼ぐため、初段の利得は少なめでよく、テール電流(初段の動作電流)を抑え、低入力バイアス電流(20nA)を実現しています。2段目は大きなゲインを稼ぎつつ、位相補償を行うことで安定性を確保します。DCゲインは106dBと大変大きいのですが、ドミナントポールは3.5Hzしかありません。ゆえに中高域の帰還量が不足し、高域の歪みが悪化するように思えます。しかしゲインの大半を稼いでいる2段目が歪みの発生源であり、ここにミラー積分型の位相補償を導入することで、高域ほど大きな局部帰還(ローカルNFB)がかかり、このステージから発生する歪みは高域ほど減少するため、全帯域で低歪を維持することができます。このオペアンプで重要なポイントは以下の通りです。

◆位相補償が内蔵され、ゲイン1でも安定動作を保証。
◆動作電流は全て定電流回路で生成され、電源電圧や同相電圧に依存せず安定。
◆定電流回路には、カレントミラー回路が導入され、温度に対して安定。
◆差動入力・電圧帰還により、NFBの設計が簡単で、かつ様々な演算に応用できる。
◆高帰還により雑音、歪率、入出力インピーダンスなどの特性が優れている。
◆全段直結回路で、動作点が安定、かつ低域の位相が平坦。
◆出力段は、利得1のバッファーで、NFBを含めた負荷の影響を遮断。

安定性、使い勝手、性能面など穴のないグラウンドデザインは、その後のオペアンプのほぼ全てに採用されていきます。優れたユーザビリティは、増幅、フィルタ、信号処理、演算など、様々な分野にオペアンプを大量導入する原動力です。μA741の登場以降、数々のオペアンプが熾烈な技術競争を展開することで、当時はまだ現役であった真空管回路を根絶せしめ(音響用でごく一部残るが)、さらにはディスクリート半導体回路の活躍の場所も、どんどん小さくなっていきました。μA741のGB積1MHzを3MHzまで広げ、出力段のダーリントンを単純なSEEP回路にしたRC4558はラジカセ・ミニコンなど音響用でも大量に使われ、多くのセカンドソースが作られました。RC4558はもちろんですが、μA741も半世紀近くたった今も製造されています。

TL07X

GB積3MHz、DCゲイン106dB、Iib=0.08nA、Vio=3mV、SRW=13V/us、PSRR10KHz=不明、Is=1.4mA

バイポーラトランジスタでは入力バイアス電流が流れますが、この電流がNFB回路などの抵抗成分で、直流電圧に変換され、入力オフセット電圧とあわせて、大きな直流電圧が発生します。例えばμA741ではIib=200nAであり、50KΩの抵抗があると10mVの電圧が発生します。オーディオに大敵な、直流電圧が大きい場合、直流遮断用のコンデンサ(※)を信号経路に入れなければなりません。しかしコンデンサは歪みが大きく、低域の位相を進めるので、音質上好ましくありません。この入力バイアス電流を格段に小さくできる理想的なオペアンプがFET入力オペアンプです。FET入力アンプの登場で、ダイレクトカップリングDCアンプ(信号経路の結合コンデンサをなくしたアンプ)が製品化されていきます。また信号源が微小電流や高インピーダンスのセンサ(フォト・ガラス電極など)の増幅回路にも、FET入力オペアンプは最適です。TL07Xシリーズは、初段をFETにした以外はμA741、RC4558とほぼ同等の回路です。GB積は3MHzとRC4558クラスですが、スルーレートが大きく、高域でも低歪です。(※信号経路のコンデンサの代わりにDCサーボを使う方法もある)

オペアンプオペアンプNFBオペアンプHD音源192KHzサウンドカードオペアンプオペアンプNFBMOS-FETオペアンプOP-AMP176.4KHZサウンドカード176.4KHZMOS-FETOP-AMPMOS-FETOP-AMPHD音源192KHz

全体: 2段増幅・ミラー積分位相補償・出力段は利得1のバッファ・動作電流は全て定電流回路で生成
初段: FET差動入力回路・能動負荷を導入
2段目: ダーリントン構成・能動負荷を導入・ミラー積分型位相補償
3段目: コンプリメンタリSEPP回路

OP27(OP37)

OP27(OP37)

GB積8MHz、DCゲイン120dB、Iib=15nA、Vio=0.03mV、SRW=2.8V/us、PSRR10KHz=53dB、Is=3.2mA

OP27は、GB積を8MHzに、DCゲインを120dBまで引き上げることで帰還量を大幅に増やし、オーディオ帯域での性能を格段に向上させています。これだけの交流性能を持っていると、入力バイアス電流や、入力オフセット電圧などのDC性能が悪化するのが一般的です。ところがOP27は、これらの性能も格段に向上しており、精度を要求される、計測などへの応用が可能です。ゲイン5以上の運用を前提に位相補償を軽減しGB積を63MHzに拡張したOP37もラインナップしています。

オペアンプオペアンプNFBオペアンプHD音源192KHzサウンドカードオペアンプオペアンプNFBMOS-FETオペアンプOP-AMP176.4KHZサウンドカード176.4KHZMOS-FETOP-AMPMOS-FETOP-AMPHD音源192KHz

全体: 3段増幅・フィードフォワード位相補償・出力段はバッファ・動作電流は全て定電流回路で生成
初段: 差動入力回路・入力バイアス電流打消し回路・コレクタ抵抗のトリミングでオフセット電圧を軽減
2段目: ダーリントン差動増幅・カレントミラー負荷
3段目: 能動負荷を導入・ミラー積分回路
4段目: インバーテッドダーリントン&コンプリメンタリSEPP回路(重い負荷でもゲインが低下しない)

OP27で導入されたフィードフォワード位相補償は、その後、多くのオペアンプで採用された画期的な位相補償です。これは、速度の劣る2段目のラテラルPNP(※)増幅段をコンデンサでバイパスすることで、高域で増幅段を3段→2段に削減し、かつ全段NPNになる仕組みです。一方、低域は3段直結増幅で、高いDCゲインを生み出します。3段目はミラー積分型位相補償で、高域の安定性を確保します。増幅段数が切り替わる周波数で、オープンループゲインのカーブに段差が出るので、GB積と、ユニティゲインの周波数帯域は一致しません。(ユニティゲインの周波数帯域が狭くなる)OP27/OP37はTIのOP227、OP228、MAXIMのMAX427、MAX437などセカンドソースも多いのですが、微妙に性能アップ、機能アップを図ったものもあります。GB積を向上させたLTのLT1007やLT1037、LT1128、LT1028、FET入力にした、TIのOPA627,OPA637など。(※ディスクリートのPNPトランジスタと異なり、モノリシックIC上のラテラルPNPトランジスタは速度が遅い)

NE5532(NE5534) /LT1128 (LT1028)

NE5532(デュアル)/NE5534(シングル)

GB積10MHz、DCゲイン100dB、Iib=10nA、Vio=0.5mV、SRW=9V/us、PSRR10KHz=不明、Is=4mA

細かな違いはありますが、基本構造はOP27同様フィードフォワード位相補償の3段増幅です。NE5532/NE5534はオーディオ用途を強く意識しており、GB積は10MHzまで伸ばされ、負荷駆動能力が強化され600Ωをドライブできます。反面オーディオ用としてオーバースペックであったオフセット電圧、入力バイアス電流、DCゲインなどの諸特性で妥協しています。低コストのラジカセやミニコンへの普及を考慮したコストを意識した設計と思われます。

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全体: 3段増幅・フィードフォワード位相補償・出力段はバッファ・動作電流は全て定電流回路で生成
初段: 差動入力回路
2段目: 差動増幅・カレントミラー負荷
3段目: ダーリントン構成・能動負荷を導入・ミラー積分型位相補償
4段目: NPNとダイオードの変則的なエミッタフォロワ

初段は、OP27/OP37にあった、入力バイアス電流打消し回路・コレクタ抵抗のトリミングなどが削られています。また2段目と4段目(出力段)のダーリントン回路を削り、代わりに3段目をダーリントンとすることで、全体の通過素子数を削減して、入出力遅延時間を削減しています。出力段は電流吐き出し時には、4段目のバッファが有効になりますが、電流吸い込みでは、3段目が直接負荷を駆動しなければならず-側波形の歪みが増大しそうです。しかし3段目はミラー積分型位相補償によって大きな局部帰還がかかっているので、影響はわずかです。むしろ4段目に速度の遅いラテラルPNPトランジスタを使わないので高速化(入出力遅延時間の減少)に寄与しているものと思われます。かなりアクロバティックな回路です。

LT1128 (LT1028)

GB積13MHz、DCゲイン150dB、Iib=18nA、Vio=0.02mV、SRW=5V/us、PSRR10KHz=70dB、Is=7.6mA

回路構成はOP27やOP37と同等ですが、GB積は13MHzまで伸ばされ、NE5532より更に高性能です。尚、最低ゲイン2以上に最適化されたLT1028では位相補償を軽減してGB積は50MHzあります。オフセット電圧、電圧雑音密度(0.85nV/√Hz)、DCゲインなどの諸特性はOP27/OP37より優れています。

全体: 3段増幅・フィードフォワード位相補償・出力段はバッファ・動作電流は全て定電流回路で生成
初段: 差動入力回路・入力バイアス電流打消し回路
2段目: ダーリントン差動増幅・カレントミラー負荷
3段目: 能動負荷を導入・ミラー積分回路
4段目: インバーテッドダーリントン&コンプリメンタリSEPP回路(重い負荷でもゲインが低下しない)

LT1128はオフセット電圧(20μV)が小さいので、SP2000のDCサーボアンプに採用されています。ハイエンドオーディオ機器の主信号経路にさえ使われることの少ない、超高級オペアンプですが、SP2000は、このオペアンプをDCサーボに使ってしまう超豪華パワーアンプです。ユニティゲインをギャランティできる3段増幅・フィードフォワード位相補償オペアンプは、これ以降あまり新しいものは見かけなくなります。シグナルパスの複雑なこのタイプのオペアンプで、これ以上の高速化は困難になったからです。

NJM2068、AD845

NJM2068

GB積27MHz、DCゲイン120dB、Iib=168nA、Vio=0.3mV、SRW=6V/us、PSRR10KHz=不明、Is=2.5mA

3段増幅・フィードフォワード位相補償を使うことなく、μA741同等のシンプルな2段増幅で、NE5532やLT1128以上のGB積を達成したのがNJM2068で、GB積は27MHz、雑音電圧はNE5532よりも優れています。なぜ、μA741と同等の回路構成でここまで高速化できたのか何も説明がありませんが、推測するに、初段と出力段のPNPトランジスタの性能向上によるものと思われます。

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全体: 2段増幅・ミラー積分位相補償・出力段はバッファ・動作電流は全て定電流回路で生成
初段: 差動入力回路・能動負荷を導入
2段目: フォロワでバッファされているダーリントン構成・能動負荷を導入・ミラー積分型位相補償
3段目: コンプリメンタリSEPP回路・短絡保護回路

同社はRC4558のセカンドソースNJM4558を製造したのをきっかけに、GB積を6MHzにアップしたNJM4559、10MHzのNJM4560、15MHzのNJM4580など、μA741同等の回路構成はそのままに、入出力遅延時間を削減して、GB積を向上させ、帰還量の向上を少しづつ推し進めました。その中でもっとも高速広帯域となったのがNJM2068です。

AD845

GB積16MHz、DCゲイン114dB、Iib=0.75nA、Vio=0.7mV、SRW=100V/us、PSRR10KHz=62dB、Is=10mA

FETオペアンプでも、2段増幅で高速化されたタイプが登場します。当初FETはPチャンネルが主流でしたがAD845はNチャンネルFETに、2段目はPNPという構成です。素子そのものが高速化されているものと思われます。オフセット電圧が0.7mVと小さい上、FET入力ですから、DCアンプに最適です。特筆すべきはスルーレートで100V/μsあります。AD845は、テイル電流を大きくしないと、Gmが(電圧/電流変換の増幅度)大きくならないFETを使用しており、意図的にスルーレートを大きくしています。反面、消費電力は大変多くなっています。

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全体: 2段増幅・ミラー積分位相補償・出力段はバッファ・動作電流は全て定電流回路で生成
初段: FET差動入力回路・カスコードブートストラップ・カレントミラー負荷を導入
2段目: ダーリントン構成・能動負荷を導入・ミラー積分型位相補償
3段目: インバーテッドダーリントン&コンプリメンタリSEPP回路(重い負荷でもゲインが低下しない)

初段のFETは、カスコードブートストラップ回路が付加されています。理由は以下の通りです。
◆高GmFETは耐圧が低い
◆入力容量は入力電圧で変化するので、高域の歪が増大する。
◆前記入力容量はバイポーラトランジスタよりも大きい

HA2839

HA2839

GB積600MHz、DCゲイン92dB、Iib=5000nA、Vio=0.6mV、SRW=550V/us、PSRR10KHz=90dB、Is=13mA

NJM2068やAD845は、3段増幅・フィードフォワード位相補償などのトリッキーな回路を使うことなく、2段増幅のまま素子の地道な改善で高性能化を推進してきました。HA2839は素子そのものの性能を大幅に改善、NJM2068よりシンプルな1段増幅で、高GB積を実現させたオペアンプです。ハリス社(現在のインターシル)はモノリシックIC上にNPNと同じ性能の、PNPトランジスタを生成するDIプロセスを開発し、デュスクリート回路と同等の真のコンプリメンタリ回路をモノリシックICで実現することに成功しました。これによってPNPトランジスタのトランジション周波数は数十倍~100倍、電流増幅率は4-5倍向上しました。この素子を有効活用すべく回路デザインされたのがHA2839です。(HA2539の改良版) 最低ゲインは10倍に最適化され、GB積は600MHz、スルーレートは550V/μsもあります。増幅段を削り、テイル電流を増やす、シンプルな高速化手段で桁違いのGB積を達成しています。

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全体: 1段増幅・ラグリード位相補償(※)・出力段はバッファ・全段上下対称回路
初段: 対称差動入力・フォールデッドカスコード回路
2段目: 3段ダーリントンSEPP回路

弊社のPS-UNIT1/PS-UNIT6と同じ、全段上下対称回路・フォールデッドカスコード1段増幅です。実際、私はHA2839の回路デザインの斬新さ、美しさに衝撃を覚えた一人です。全段上下対称回路は電源ノイズの抑圧比(PSRR)が極めて高く、電源を通じてのクロストーク(S/Nやチャンネルセパレーション)に優れているほか、スルーレートの対称性も優秀です。例えば電源ノイズ抑圧比(PSRR)でいえば、OP37が100KHzで33dBですが、HA2839は72dBもあるため、電源ノイズの影響を約1/100倍に圧縮できるのです。さらに、1段増幅でも、十分なDCゲインを確保できるよう、出力段は3段ダーリントンとパワーアンプ並みで、DCゲインは92dBほどあります。更に全ての定電流回路は、カスコードブートストラップ接続され、電源変動や同相電位変動に対し、より一層影響を受けないアンプとなっています。1段増幅で大きなDCゲイン、GB積を稼ぐため、入力バイアス電流や、消費電流がとても大きく使い勝手はよくありません。また高速なので、基板設計や部品の選定を誤ると簡単に発振してしまいます。上級者向けのオペアンプです。

※ラグリード位相補償は、電圧増幅段の負荷を高域で重くすることで、高域のゲインを削る位相補償システムです。

AD826/LM6361

AD826 (GB積50MHz、DCゲイン76dB、Iib=3300nA、Vio=0.5mV、SRW=350V/us、PSRR10KHz=67dB、Is=6.8mA)
LM6361 (GB積50MHz、DCゲイン70dB、Iib=2000nA、Vio=5mV、SRW=300V/us、PSRR10KHz=80dB、Is=5mA)

HA2839やHA2539のDIプロセスや、フォールデッドカスコード1段増幅回路は、ハイビジョン帯域に達する映像回路のオペアンプ化を推進できる可能性を示しました。すぐさま様々な半導体ベンダーによって、縦型PNPトランジスタを構築できる方法(CBプロセス/アナデバ、VIPプロセス/ナショセミ・・・)が開発され、フォールデッドカスコード1段増幅オペアンプが続々登場します。HA2839で採用された、全段上下対称回路や、定電流回路のカスコード接続などダイ面積を必要とする部位(=コスト)は通常のオペアンプに近い回路に戻され、ユニティゲインでも安定動作するよう、位相補償などが再検討され、使い勝手が改善し、コストも大分下がりました。まずはユニティゲインで動くGB積50MHzのオペアンプ2種類を紹介したいと思います。この両者は同じマーケットで熾烈な競争を繰り広げていました。

オペアンプLM6361オペアンプNFBオペアンプHD音源192KHzサウンドカードオペアンプオペアンプNFBMOS-FETオペアンプOP-AMP176.4KHZサウンドカード176.4KHZMOS-FETOP-AMPMOS-FETOP-AMPHD音源192KHz
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LM6361

全体: 1段増幅・局部帰還・出力段はバッファ・動作電流は全て定電流回路で生成
初段: 差動入力・フォールデッドカスコード回路
2段目: コンプリメンタリSEPP回路

AD826

全体: 1段増幅・局部帰還・出力段はバッファ・動作電流は全て定電流回路で生成
初段: 差動入力・フォールデッドカスコード回路
2段目: インバーテッドダーリントン&コンプリメンタリSEPP回路(重い負荷でもゲインが低下しない)

両者の違いは出力段だけで、大雑把に言えば、消費電力とコストではLM6361、DCゲインと入力バイアス電流ではAD826が有利です。出力段の強力なAD826では電圧増幅段の負荷が軽く、DCゲインが大きくなっています。それでもDCゲインはこれまでのオペアンプよりも低く、LM6361に至っては70dBしかありません。位相補償はラグリード方式ではなく、初段の差動アンプのエミッタに抵抗を挿入するタイプの局部帰還方式です。この方式は位相補償コンデンサが電圧増幅段の負荷にならないので、小さなテイル電流で大きなスルーレートが確保でき、消費電力と入力バイアス電流を減らせます。(電圧増幅段の負荷容量が小さいほど、テイル電流が大きいほど、スルーレートが大きくなる)ただし、局部帰還では、全帯域でゲインを削って位相余裕を確保するためで、DCゲインが減少してしまいます。DCゲインを全く気にしていないのは、これらのオペアンプがオーディオ帯域や計測アンプへの応用は全く考慮していないためです。つまりビデオアンプを念頭においているのです。HA2839に比べると消費電流は半減し、入力バイアス電流も減っています。それでも入力バイアス電流は一般のオペアンプに比べると、まだまだ巨大で、注意が必要です。

AD797・LT1469

AD797 (GB積110MHz、DCゲイン146dB、Iib=250nA、Vio=0.25mV、SRW=20V/us、PSRR10KHz=81dB、Is=8.2mA)
LT1469 (GB積90MHz、DCゲイン126dB、Iib=10nA、Vio=0.1mV、SRW=22V/us、PSRR10KHz=92dB、Is=4.1mA)

AD826のようなフォールデッドカスコード1段増幅回路は、2段増幅や3段増幅では不可能な、超高GB積を達成できる可能性を示しました。この回路の幾つかの問題点(入力バイアス電流とDCゲイン)解消してオーディオ帯域へ導入が可能になれば、性能は格段に向上しましす。これを実現したオペアンプがAD797とLT1469です。まず、DCゲインが低すぎる点と、入力バイアス電流が大きすぎる点を何とかしなければなりません。そこで、局部帰還による位相補償をHA2839のような、ラグリード位相補償に戻し、DCゲインを増やします。また入力バイアス電流も1/10以下に軽減され、何とかエンジニアに受け入れられるレベルに達しました。

オペアンプオペアンプNFBオペアンプHD音源192KHzサウンドカードオペアンプオペアンプNFBMOS-FETオペアンプOP-AMP176.4KHZサウンドカード176.4KHZMOS-FETOP-AMPMOS-FETOP-AMPHD音源192KHz

全体: 1段増幅・局部帰還・出力段はバッファ・動作電流は全て定電流回路で生成
初段: 差動入力・フォールデッドカスコード回路・歪み除去
2段目: インバーテッドダーリントン&コンプリメンタリSEPP回路(重い負荷でもゲインが低下しない)

AD797とLT1469はトランジスタの極性が全て反転している以外は、殆ど同じ回路構成です。つまりAD797でNPNの部位はLT1469ではPNPになっているわけです。AD797とLT1469が非凡であるのは、歪み除去回路を組み込んでいる点です。一般的に、電圧増幅段の出力インピーダンスは、信号電圧で変動し、これが電圧ゲインを変動させて歪みを発生させます。AD797/LT1469は、フォールデッドカスコード回路の出力に歪み除去回路が組み込んでおり、前述の歪みを除去しています。この手法はオペアンプ草創期から確立されている方法で、古くは1970年に登場したLM108で使われている手法です。(電圧増幅段のカレントミラ負荷のマイナス側を、電圧増幅段の出力でブートストラップする方法)このほか出力段の歪みをキャンセルする回路も導入され、AD797は測定限界の1ppmに達する性能を叩き出しました。同等の歪み除去の仕組みは、弊社のコントロールアンプSC1000、パワーアンプSP2000のユニットアンプPS-UNIT1、プリメインアンプUIA5500用のユニットアンプPS-UNIT6にも導入されています。

OP604(シングル)/OPA2604(デュアル)

OP604(シングル)/OPA2604(デュアル)

GB積20MHz、DCゲイン100dB、Iib=0.1nA、Vio=1mV、SRW=25V/us、PSRR10KHz=66dB、Is=5.25mA

AD797やLT1469の入力素子をFETに置き換えたタイプです。データシートでは、フォールデッドカスコード回路の出力に、Distortion Rejection Circuitryと記載されているブラックボックスがありますが、これは、AD797やLT1469でも説明したとおり、電圧増幅段の出力インピーダンスが、信号電圧で変動することで発生する歪みを除去する回路と思われます。

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全体: 1段増幅・局部帰還・出力段はバッファ・動作電流は全て定電流回路で生成
初段: FET差動入力・フォールデッドカスコード回路・歪み除去
2段目: 中身が未公表のバッファアンプ

GB積やDCゲインが小さいので、AD797やLT1469に比べると歪み率は見劣りしてしまいますが、NE5532よりは高性能です。OPA2604がリリースされたころから、オーディオアナライザ(歪み測定器)の測定限界を超え始めたため、ノイズゲイン(歪みやノイズに対するゲイン)を高めて歪みを計測しノイズゲインで計測結果を除算する手法が使われています。こうした計測方法の変更で、測定結果は格段とよくなりました。これまでのオペアンプもこうした手法で計測しなおすことで、より高い性能を達成できるでしょう。

LM4562,LME49710,LME49720,LME49740・・・

LM4562,LME49710,LME49720,LME49740,LME49860,LME49870

LM4562:GB積55MHz、DCゲイン140dB、Iib=10nA、Vio=0.1mV、SRW=20V/us、PSRR10KHz=105dB、Is=5mA

内部はブラックボックスで、まったく推測がつきません。ノイズゲイン(歪みやノイズに対するゲイン)を高めて歪みを計測しているので、歪みデータは桁違いによくなったように思えますが、実際にはAD797やLT1469と大差ありません。むしろGB積ではAD797やLT1469に及んでいないので、実際の性能はこちらのほうが悪いと思われます。逆に言えばAD797でもノイズゲインを高めて計測すれば、もっと優れた性能を叩き出すものと思われます。これらのオペアンプが優秀なのは、高速広帯域である割に、入力バイアス電流が10nAととても小さいことです。何らかの工夫がされていると思われますが、考えられる方法は、以下の3つです。

 ①入力バイアス電流補償回路(OP27,OP37,LT1128,LT1028と同様)
 ②ダーリントン差動入力回路(PS-UNIT6)
 ③多段増幅(しかし3段は考えにくい)

LM4562は、UIA5000、UIA5500のMCイコライザアンプに採用されています。優れたDCゲインとGB積は、大きなDCゲインを必要とする、MCイコライザでも十分通用するからです。入力バイアス電流が小さいのでカートリッジへの影響も最小です。

LME49990

GB積110MHz、DCゲイン135dB、Iib=30nA、Vio=0.13mV、SRW=22V/us、PSRR10KHz=102dB、Is=8mA

LM4562などの優秀な測定データは、オペアンプそれ自体のドラスティックな改革によるものではなく、ノイズゲインを高めて測定した結果にすぎません。一方、AD797のデータシートの歪率はこのような手法を使わず、測定限界-120dB以下を表記していません。そのAD797のGB積は110MHz、DCゲインも146dBもありますから、LM4562やLME49710よりも優れているのは一目瞭然で、AD797もLM4562と同じようにノイズゲインを高めて測定すれば、LM4562より優れた結果になる可能性が高いでしょう。さらに電圧雑音密度もAD797のほうが優れていて、S/Nの側面でもAD797を超えているとは言えません。実際、アマチュアでノイズゲインを高めた測定ではAD797のほうが優秀なデータを示しています。そこでNS社はLME49990をリリースします。LME49990は、AD797と同等のGB積、電圧雑音密度を有しており、しかも入力バイアス電流は30nAとAD797の1/8で、使い勝手も向上しています。
内部は相変わらずのブラックボックスですが、GB積を倍以上に伸ばすのは簡単ではないので、LM4562系の回路とは異なるかもしれません。(LM4562はミラー積分型位相補償による2段増幅、LME49990はラグリード位相補償型の1段増幅とか)なおAD797やLME49990などGB積110MHzのアンプは、基板設計や部品の選定を誤ると簡単に発振してしまいます。GB積50MHzを超えるオペアンプはビギナ向けではありませんね。

OPA1611,OPA1612OPA1641・・・

OPA1611,OPA1612

GB積100MHz、DCゲイン130dB、Iib=60nA、Vio=0.1mV、SRW=27V/us、PSRR10KHz=72dB、Is=3.6mA

AD797、LT1469,LME49990などのハイゲイン・高GB積・低歪みオペアンプに対抗できるオペアンプはTIには存在せず、見劣りしていました。仮に同等の性能を得たところで、差別化は難しいでしょう。そこで、TIもGB積100MHzの低歪み・レールツーレーツ出力オペアンプを製品化します。レールツーレーツ出力によって、電源電圧ギリギリまで出力電圧を振幅させることが可能になり、消費電流が小さいことも相まって、電源部分のコストを下げることが可能です。このオペアンプも、重要な部分はブラックボックスですが、LM4562と違い、2段目以外の回路を公表しています。電圧雑音密度も1.1nVとAD797、LME49990、LT1128に迫ります。尚、このオペアンプは高域でゲインが減少するのでゲイン1では帯域が40MHzに減少します。

①入力は差動カレントミラー負荷・・・いたって普通
②2段目がブラックボックス(ミラー積分型位相補償)
③3段目がレールツーレール出力段

AD797の1段増幅・ラグリード位相補償と異なり、2段増幅・ミラー積分型位相補償になっています。それぞれ一長・一短ありますがミラー積分型位相補償では局部帰還の分、2段目にかかる帰還量は大きくなる(NFBによる帰還量+局部帰還による帰還量)点で有利です。反面、シグナルパスは複雑な分、遅延時間が大きくなりがちですが、OPA1611,OPA1612のGB積は100MHzもあり、優れた回路技法が使われています。尚、AD797、LT1469,LME49990はシングルしかありませんが、デュアルのOPA1612がある点も魅力です。

OPA1641,OPA1642,OPA1644

GB積11MHz、DCゲイン130dB、Iib=0.002nA、Vio=1mV、SRW=20V/us、PSRR10KHz=58dB、Is=1.8mA

回路構成は、OPA1611,OPA1612の入力素子をバイポーラから、FETにしただけですが、GB積が11MHzと旧世代のNE5532並みに減少しています。これによって、OPA1611,OPA1612とは同じ回路にして、まったく異なる性質のアンプになっています。TIは、FET入力オペアンプではヒット作のTL06X/TL07X/TL08Xシリーズ、さらに高性能版のOPA604/OPA2604などがありますが、前者はGB積が小さく、後者は消費電流がかなり大きいなど時代遅れの感がありますが、OPA1641,OPA1642,OPA1644は、GB積はTL06X/TL07X/TL08Xより大きく、消費電流はOPA604/OPA2604より少ないなど、ちょうど両者のいいとこどりの位置付けで、かつレールツーレール出力段を持っているということになります。OPA1641,OPA1642,OPA1644の特性から読み取れる重要なポイントは以下の通りです。

①入力バイアス電流の影響を考慮しなくてよいFET入力
②汎用オペアンプ(TL07XやRC4558、NE5532、NE5534)より低オフセット電圧
  (殆どのアプリケーションでオフセット電圧の影響を考慮せずに済む)
③GB積はビギナでも扱いやすい11MHzと無理しない設計
④レールツーレール出力+低消費電流で、電源の設計が楽
⑤デュアル、クワッドタイプがあるので、アンプを大量に使う計測機器にも最適

TIは、このシリーズをOPA1611,OPA1612のFET版として位置づけをしているのではなく、次世代のTL06X/TL07X/TL08Xに位置づけているのでは・・と思います。ただ数量が出ていないのか、コストがまだまだ高く、普及には時間がかかりそうです。ちなみにGB積も50MHzを超えると、以下のような理由で、発振しやすくなります。このため、多くのエンジニアが扱う汎用性の高いオペアンプの場合、あまりGB積を頑張りすぎてはいけないのです。

◆温度や電源ドリフトによる位相余裕の変化
◆基板に付着する汚れの吸湿による位相余裕の変化
◆配線のインダクタンスおよび、配線間のキャパシタンス
◆高速・大振幅パルスなどが印加された場合の挙動(入力切り替え時など)
◆帰還回路のインピーダンスと、入力容量による位相遅れ
◆進み位相補償による、容量負荷の増大(進み補償Cと入力容量の合成容量が出力段の容量負荷になる)

PS-UNIT1

PS-UNIT1

GB積150MHz以下、DCゲイン138dB、Iib=0.14nA、Vio=37mV、SRW=67V/us、PSRR10KHz=193dB、Is=26.7mA+出力段アイドル電流


これまで、色々なオペアンプを説明してきましたが、弊社のオーディオ製品では独自のユニットアンプ(オペアンプ)を開発し、オーディオ製品に搭載しています。この理由、位置づけについて解説していきたいと思います。まず、コントロールアンプSC1000、パワーアンプSP2000に採用されたPS-UNIT1ですが、このオペアンプの目的とするところは以下の通りです。

① 100W/8Ω超のパワーアンプに応用できる、広い電源電圧範囲
② パワーアンプの出力段を付加できるようなデザイン
③ 位相補償を外付けにして、クローズドループゲインによって最適な、位相補償を設定できること
④ 市販の低歪オペアンプのGB積、スルーレート、PSRR、裸特性を上回る性能を持つこと
⑤ 低インピーダンスのヘッドホンをダイレクトに駆動できる高出力電流。
⑥ MCヘッドアンプでも使える低電圧雑音密度。
⑦ コストは全く考えず、考えうる最高の回路構成、部品を投入すること

弊社はトリッキーでオリジナリティが強い回路はあまり使わないようにしています。過去を振り返ると、こうした回路の多くは、問題があったり、あるいは同等の効能を得る手段は、オーソドックスで実績のある手法が幾らでもあるからです。実際、回路デザインは、先人達が多くの回路技法を生み出し、市場に投入して実績を積み重ねています。既にμA741で述べたとおり、半世紀近い前の回路デザインが現役なのです。弊社のアナログ回路デザインは、効果は明確だがコストが掛かりすぎて、どのメーカーも投入できないような、オーソドックスな回路技法を積み重ねているだけなのです。PS-UNIT1の回路デザインのポイントをまとめると以下の通りです。

◆全段コンプリメンタリ回路(HA2839、HA2539、AD812、AD844など)
◆定電流回路にまでカスコードブートストラップを施した定電流回路(HA2839)
◆フォールデッドカスコード回路(HA2839、AD797、AD826、LM6361、LM6261、OPA604)
◆アーリー効果、ミラー効果などに対する歪み除去回路(LM108、AD797、OPA604)
◆カスコードブートストラップ付きFET入力(AD845、OPA627、OPA637、OPA827)

オペアンプオペアンプNFBオペアンプHD音源192KHzサウンドカードオペアンプオペアンプNFBMOS-FETオペアンプOP-AMP176.4KHZサウンドカード176.4KHZMOS-FETOP-AMPMOS-FETOP-AMPHD音源192KHz

全体: 1段増幅・ラグリード位相補償・出力段は利得1のバッファ・全段上下対称回路
初段: FET対称差動入力・カスコードブートストラップ・フォールデッドカスコード回路・歪み除去
2段目: 2段ダーリントンSEPP回路・FET入力・カスコードブートストラップ回路

モノリシックICオペアンプでは電源利用効率が悪くなるのであまり採用しない、全段カスコードブートストラップ構成になっています。AD797の項では、電圧増幅段の出力インピーダンスが、信号電圧で変動し、これが電圧ゲインを変動させて歪みを発生させると書きましたが、同じことは入力インピーダンスにも該当します。全段カスコードブートストラップ構成では、信号電圧で入力インピーダンスが変動して発生する歪も除去することができ、限りなくゼロ歪を実現できるのです。PS-UNIT1はレギュレーターも内蔵しており、途方もないPSRRを達成しています。詳細は↓にて。
LinkIconPS-UNIT1/PS-UNIT
2/SC1000/SP2000技術解説(2.4MB)

LinkIconPS-UNIT1仕様書(12.5MB)

PS-UNIT6

PS-UNIT6

GB積129MHz以下、DCゲイン142dB、Iib=29nA、Vio=2mV、SRW=35V/us、PSRR10KHz=119dB、Is=25.2mA


続いてプリメインアンプUIA5500に採用されたPS-UNIT6です。このオペアンプの目的とするところは以下の通りです。

① ±24V程度の電源電圧まで応用できる、広い電源電圧範囲
② 変更可能な位相補償により、クローズドループゲインによって最適な、位相補償を設定できること
③ 市販の低歪オペアンプのGB積、スルーレート、PSRR、裸特性を上回る性能を持つこと
④ 入力容量を削減し、信号源インピーダンスが高くても十分な性能を発揮できること
⑤ プリメインアンプなどにも応用できるよう小型、デュアルタイプ、低消費電力であるること
⑥ PS-UNIT1のデザインを継承していること。

PS-UNIT6はPS-UNIT1の回路構成を継承しています。まず④⑤の入力容量・消費電力の観点からFET入力は、バイポーラ・ダーリントンに置き換えられ、デバイスの低容量化を推進することで、GB積とスルーレートを落とさずに、テイル電流を減らしています。また全部品のSMD化(表面実装、両面実装)を達成して④の小型化、デュアル化を達成しています。これには電源電圧の低電圧化が大きいのですが、UIA5500では多重帰還という手法で、出力段を分離し、±16Vの低電圧で、56Wの高出力を達成しています。回路デザインのポイントをまとめると以下の通りです。

◆全段コンプリメンタリ回路(HA2839、HA2539、AD812、AD844など)
◆フォールデッドカスコード回路(HA2839、AD797、AD826、LM6361、LM6261、OPA2604)
◆アーリー効果、ミラー効果などに対する歪み除去回路(LM108、AD797、OPA2604)
◆ダーリントンバイポーラ入力(LM318)

オペアンプオペアンプNFBオペアンプHD音源192KHzサウンドカードオペアンプオペアンプNFBMOS-FETオペアンプOP-AMP176.4KHZサウンドカード176.4KHZMOS-FETOP-AMPMOS-FETOP-AMPHD音源192KHz

全体: 1段増幅・ラグリード位相補償・出力段は利得1のバッファ・全段上下対称回路
初段: ダーリントン対称差動入力・カスコードブートストラップ・
     フォールデッドカスコード回路・歪み除去
2段目: インバーテッドダーリントン&コンプリメンタリSEPP回路・カスコードブートストラップ接続

PS-UNIT6も全段カスコードブートストラップ構成です。PS-UNIT1で回路規模の大きくしていた、定電流回路へのカスコードブートストラップ回路、レギュレータ搭載は、廃止されました。代わりに電源リップルフィルタが導入され、S/Nやチャンネルセパレーションが悪化しないよう考慮しています。PS-UNIT6を使ったUIA5500の、光デジタル入力における1KHz/1W/8Ωの歪率は1ppmですが、通過するアンプ段数は5段+DACなので、均等割りで考えても1つあたりの歪率は0.16ppmということになります。これはノイズゲインを高めて計測する手段ではないので実際の歪率はもっと小さいと推測されます。詳細は↓にて。
LinkIconPS-UNIT6/UIA5500技術解説(12.9MB)
LinkIconPS-UNIT6仕様書(6.9MB)

電流帰還型オペアンプAD812

電流帰還型オペアンプAD812

ゲイン1に相当するGB積145MHz、DCゲイン82dB、Iib=300nA(+)/-7000nA(-)、Vio=2mV、SRW=600V/us、PSRR10KHz=79dB、Is=4.5mA
オープンループ・トランスインピーダンスDC119dB、1MHz91dB

オペアンプの歴史は、GB積向上の歴史でもあります。DCゲインを高めるのは簡単ですが、GB積の向上は簡単ではないからです。3段増幅フォードフォワード位相補償、DIプロセスとフォールデッドカスコード1段増幅、デザインの地道な改善など、様々な技術が投入されていきましたが、結局のところ、GB積の大きなアンプは消費電流が大きいという問題はあまり解消されていません。また高速化に不可欠である電極間容量の縮小と、テイル電流の増大は相反するパラメータで、簡単には両立できません。また従来のオペアンプはGB積固定であり、ゲイン1の安定動作を補償する必要があるため、高ゲインアプリケーションでは位相補償が過剰すぎて、性能が振るわないという問題がありました。これらの問題を一気に解消できるオペアンプが、電流帰還型オペアンプです。ここでは、弊社がよく使うAD812を解説します。多くの電流帰還型オペアンプがビデオ帯域を意識していますが、AD812は計測、音響などで使われる1MHz以下の雑音歪率性能がとても優れています。特性が似ているので、ディスコンになったAD846のマイナーチェンジ版と思われます。

※ オープンループ・トランスインピーダンスというパラメタを追加しました。電流帰還型オペアンプでは-入力への電流入力を、電圧に変換する増幅器であるた、え、この電流-電圧変換率が重要です。この値をトランスインピーダンスと呼んでいます。オープンループ・トランスインピーダンスは、オープンループゲインに相当する重要な要素です。

オペアンプオペアンプNFBオペアンプHD音源192KHzサウンドカードオペアンプオペアンプNFBMOS-FETオペアンプOP-AMP176.4KHZサウンドカード176.4KHZMOS-FETOP-AMPMOS-FETOP-AMPHD音源192KHz

斬新かつ独特の回路構成ですね。オペアンプに必須であった、差動アンプがなくなっています。

初段: カレントミラーを2段カスケード接続した1段増幅、上下対称回路
2段目: インバーテッドダーリントン&コンプリメンタリSEPP回路(重い負荷でもゲインが低下しない)

ポイントは以下の3点です。


①差動回路やフォールテッド回路など最大電流を制限するような回路がない。
②全段上下対称回路(全段コンプリメンタリ回路)なので、大振幅状態で回路
  の半分がカットオフしても、B級動作に遷移して動作を継続可能。つまりAB級動作が可能。
③初段の-入力のインピーダンスは局部帰還を兼ねており、NFBのインピーダンス(抵抗値)
 によって、次のように特性が変わります。

  • NFB抵抗が小さい=GB積とDCゲインが上昇、位相余裕が減少。
  • NFB抵抗が大きい=GB積とDCゲインが減少、位相余裕が増大。

 つまり目的のクローズドループゲインにあわせて、最適なGB積を選択できるわけです。

これらが電流帰還型オペアンプの重要な3つの効能です。3つの効能を簡潔にまとめると以下の通りです。

  • 最大電流を制限する回路がないので高速 (高スルーレート)
  • AB級動作により小さいアイドル電流でも高速 (低消費電流)
  • GB積をプログラムできる (クローズドループゲインの高い用途でも高性能)


電流帰還型オペアンプはコムリニア(現在はTI)から始まり、殆どのアナログ半導体ベンダが製品化しています。電流帰還型オペアンプの登場で、数MHz~数百MHzの高周波のディスクリートアンプが、次々とオペアンプに置き換えられていき、装置の高性能化、低消費電力化、小型化が推進されていきました。プログラム可能な大きなGB積はオーディオ用としては魅力的です。また全段コンプリメンタリ回路によって電源ノイズの抑圧比率が高く、高S/Nにしやすい点もオーディオに向いています。しかし、大きなバイアス電流、大きな電流性雑音、小さいDCゲインなど、殆どの電流帰還型オペアンプはオーディオアプリケーションを意識していません。しかしその中で、唯一オーディオ帯域の性能が優れているものがAD812です。低雑音・低歪で、性能はAD797やLME49990と同等以上です。DCゲインは低いのですが、局部帰還が掛かっているため、あまり問題ではありません。また出力段のインバーテッドダーリントンSEPP回路がカスコードブートストラップ接続され、この段の入力容量が信号電圧で変調をうけることで生じる歪を抑えています。GB積はゲイン1で145MHz、ゲイン2で200MHz、ゲイン10で650MHzもあり、AD797の比ではありません。

LT1358~LT1365,OP467,LM6171~LM6172

LT1358~LT1365,OP467,LM6171~LM6172

LT1363:GB積75MHz、DCゲイン79dB、Iib=120nA、Vio=0.5mV、SRW=1000V/us、PSRR10KHz=84dB、Is=6.3mA


電流帰還の問題点

一見万能な電流帰還型オペアンプも、間もなくして使い勝手の悪さが着目されます。-入力のインピーダンスが位相余裕(安定性)を左右するので、NFB回路の自由度が殆どない点です。オペアンプは、NFB回路を使って周波数特性や位相特性を調整することはよくあります。このようなNFB回路ではインピーダンスが高域でゼロ付近まで減少するケースが多く、電流帰還型オペアンプでは安定性が確保できません。またアクティブフィルタ、IVコンバーター、オーディオのトーンアンプやイコライザなどでも同様の問題が生じます。すなわち、電流帰還型オペアンプが使えるアプリケーションは極めて少ない点が問題でした。電流帰還型オペアンプはゲイン段やバッファアンプにしか用いることができないのです。一つの解消手段としてベンダーが提示した方法は、-入力に直列抵抗を入れる方法でしたが、中低域の局部帰還が増大して、オーバーオールの帰還量が減少し、性能が悪化するため技術者から嫌われました。

電流帰還トポロジーの電圧帰還型オペアンプ

そこで、新たなオペアンプが開発されます。電流帰還の-入力に抵抗を介してバッファアンプをカスケード接続したオペアンプです。これを電流帰還トポロジーを有する、電圧帰還型オペアンプと呼びますが、一般には短縮して、”電圧帰還型オペアンプ”といいます。NE5532やAD797、OP27など、これまで解説してきたオペアンプも電圧帰還型ですが、あえて電圧帰還型とは呼びません。電圧帰還型オペアンプと称するものは、電流帰還トポロジーを有しながら、電圧帰還になっているという意味です。構造的は以下の通りです。

オペアンプオペアンプNFBオペアンプHD音源192KHzサウンドカードオペアンプオペアンプNFBMOS-FETオペアンプOP-AMP176.4KHZサウンドカード176.4KHZMOS-FETOP-AMPMOS-FETOP-AMPHD音源192KHz

初段: カレントミラーを2段カスケード接続した1段増幅、上下対称回路。
     -入力に抵抗を介してインバーテッドダーリントン&コンプリメンタリSEPPバッファ
2段目: インバーテッドダーリントン&コンプリメンタリSEPP回路(重い負荷でもゲインが低下しない)

電流帰還型トポロジの継承

電圧帰還でありながら、電流帰還の持つ以下の特徴が継承されます。
①差動回路やフォールテッド回路など最大電流を制限するような回路がない。
②全段上下対称回路(全段コンプリメンタリ回路)なので、大振幅状態で回路の半分がカットオフしても、B級動作に遷移して動作を継続可能。つまりAB級動作が可能。

ただしGB積はプログラムできず、普通のオペアンプ同様、固定になり、この点だけが電流帰還と異なります。一方、NFB回路の自由度が向上し、アクティブフィルタ、IVコンバーター、オーディオのトーンアンプやイコライザ、演算回路など様々な分野への応用が可能になります。もっともオーディオ回路にこれらのオペアンプを導入するには大きな問題があります。電流帰還トポロジーを有する、電圧帰還型オペアンプは歪率がとても悪く、構造上、回避することは困難だからです。例えばLT1358の3Vrms/20KHz/G=2の歪率は0.0022%です。これは最新の低歪オペアンプに比べ10倍~200倍も大きな歪率で、多数のオペアンプが使われ、かつゲイン1とか2とかにできないようなオーディオ機器では、最終的な歪率はとても大きくなってしまいます。これらのオペアンプはオーディオ用途を前提にしていないので、歪率などの問題は今後も着目されることは無いでしょう。

3種類の位相補償を組み合わせる。

このオペアンプは位相補償を、局部帰還(初段のエミッタ抵抗Rp)、ラグリード位相補償Cp、そして出力部の容量負荷補償Clpの3つに分散しています。出力部の容量負荷補償用のコンデンサClpは、出力段のゲインは1であるため、通常はClpに電位差が生じず、Clpには何の作用も生ありません。ところが負荷容量が増大すると、高域で出力段のゲインが1以下になり、Clpに電位差が発生してラグリード位相補償の容量にClpが追加されます。これによって、容量負荷が増大するとGB積を減少させて安定性を確保します。その分、ラグリード位相補償の容量を軽減させることが可能で、容量負荷が少ない場合には大きなGB積を確保することが可能です。また、局部帰還にはDCゲインが減少するという欠点があり、ラグリード位相補償は高域の電圧増幅段の負荷を重くするという欠点がありますが、位相補償を分散させることで、バランスの取れた性能を達成しています。

PS-UNIT5

PS-UNIT5

ゲイン1に相当するGB積145MHz、DCゲイン82dB、Iib=300nA、Vio=4mV、SRW=600V/us、PSRR10KHz=79dB、Is=9mA

UIA5000に採用されているPS-UNIT5は、電流帰還トポロジーを有する、電圧帰還型オペアンプの歪率の問題を解消したものです。このタイプのオペアンプの歪率が悪いのは、-入力に導入された無帰還のバッファアンプによる影響です。このバッファアンプは無帰還なので歪が多く、しかもNFBループの外側にあるため、歪みが改善されないまま、出力されるのです。そこで、PS-UNIT5は-入力のバッファアンプを、無帰還のバッファから、電流帰還型オペアンプによるゲイン1のバッファに変更しています。電流帰還オペアンプの-入力を、電流帰還型オペアンプによるバッファアンプで駆動する方式です。電流帰還型オペアンプは、オーディオ帯域の性能に優れているAD812です。
オペアンプオペアンプNFBオペアンプHD音源192KHzサウンドカードオペアンプオペアンプNFBMOS-FETオペアンプOP-AMP176.4KHZサウンドカード176.4KHZMOS-FETOP-AMPMOS-FETOP-AMPHD音源192KHz


初段: カレントミラーを2段カスケード接続した1段増幅、上下対称回路。
    -入力に抵抗を介して、同じ電流帰還型バッファ(ボルテージフォロワ)
2段目: インバーテッドダーリントン&コンプリメンタリSEPP回路(重い負荷でもゲインが低下しない)

ピンアサインはPS-UNIT6と同等です。性能面ではPS-UNIT6にかないませんが、消費電力、サイズなどはPS-UNIT5に分があります。PS-UNIT5を使ったUIA5000の、ライン入力における1KHz/1W/8Ωの歪率は1.5ppmですが、通過するアンプ段数は3段なので、1つあたりの歪率は0.5ppmということになります。これはノイズゲインを高めて計測する手段ではないので実際の歪率はもっと小さいと推測されます。詳細は↓にて。
LinkIconPS-UNIT5/UIA5000技術解説(11.4MB)

NFBなくして高性能アンプは成り立たず

NFBは現代のアナログ技術の基本

音響機器だけでなく、映像機器、電源、産業機器、医療機器、航空宇宙機器、防衛産業、通信などあらゆる分野のアナログ電子回路は、NFB技術によって支えられています。重低音をガンガン鳴らしているラジカセのCDが飛ばないのも、フィードバック技術の恩恵にほかなりません。NFBがないとアナログ回路の精度は可聴帯域で、だいたい1000ppm以上、より高い周波数ではより多くの誤差が生じますから、アナログ回路はNFBなしには成立しません。NFBによる効能は以下の通りで、情報を精密に伝送する上で欠かせない技術です。

①高調波歪率を低減する。
②混変調歪率を低減する。
③ループ内の電流雑音と電圧雑音を低減する。
④ダイナミックレンジを拡大する
⑤周波数特性を広げる
⑥位相特性を改善する。
⑦逆起電力など負荷の影響を受けにくくする。
⑧温度によるゲインやオフセットのドリフトを軽減する。

低帰還神話

最近は下火になりましたが、オーディオ機器では、NFB懐疑論があります。オーディオは趣味ですがら、色々な個性豊かな製品があることは良いことです。しかしNFB懐疑論は、NFBを正しく理解できていない方々が、実験やシミュミレーションなど客観的な検証を行わずに、提唱した感覚論ばかりです。実際に、検証すると、その殆どが技術的・科学的に誤っているのです。(例えば「NFBをかけると逆起電力がNFBループを巡る」とか「小さい音がなくなってしまう」とか)何故、そのような理屈が出てきたのか定かでありませんが、ヒアリングの結果、当人の好みが低帰還であったのではないかと思われます。オーディオマニアには、原音よりも、適度に歪んだ音を好む人が大変多く、それを次のように、主観的に解釈したのだろうと思います。

①NFBの多いアンプは現代の科学では解明されていない、未知の要素によって音が悪くなる。
②その未知の要素は、現代の測定器では分析できないが、耳ではわかる。
③だからヒアリングが重要で、計測で優秀なアンプでも音質がいいとは限らない。

全てが憶測の上に成り立った砂上の楼閣ですね。まず電子工学や音響工学において、①の未知の要素自体がありえない話なのです。もっとも、これらの理論は皆、アマチュアの思いつきで雑誌に投稿されたものに過ぎません。ところが本来プロフェッショナルであるはずのメーカーの技術者までが、こうしたアマチュアの技術論に振り回されています。日本を代表するハイエンド・オーディオ・メーカーのカタログにこう書いてあるのです。NFBをかけた安定化電源は出力が小刻みに振動するから駄目だ。これって・・・発振では。もっとも、一流の半導体ベンダが、このようなオカルト理論に左右されるはずもありません。JRC、アナログデバイセズ、リニアテクノロジ、ナショナルセミコンダクタ、インターシル、テキサスインスツルメンツなどオペアンプメーカーの歴史は、これまで説明してきたとおり、如何に大量のNFBを広帯域でかけるか、つまりGB積の戦いをしてきたわけです。

HA5102/HA5104

HA5102/HA5104 (2011.12.28追加)

GB積20MHz、DCゲイン108dB、Iib=130nA、Vio=0.5mV、SRW=3V/us、PSRR10KHz=78dB、Is=1.8mA)

GB積もDCゲインも特別凄いというわけではないが、このオペアンプに使われている回路技法は面白いので掲載しておきます。まず2段目のエミッタが初段のコレクタに接続され、2段目はエミッタ接地とベース接地を兼ねています。このことから初段のカレントミラーはバランスではないと推測されます。またミラー積分型位相補償とラグリード型位相補償を組み合わせているなど、いたるところに1段増幅と2段増幅の要素を併せ持っています。GB積の割りにPSRRが大きいのは全段上下対称回路であるからです。

オペアンプオペアンプNFBオペアンプHD音源192KHzサウンドカードオペアンプオペアンプNFBMOS-FETオペアンプOP-AMP176.4KHZサウンドカード176.4KHZMOS-FETOP-AMPMOS-FETOP-AMPHD音源192KHz


全体: 2段増幅・ミラー積分+ラグリード位相補償・出力段はバッファ・動作電流は全て定電流回路で生成
初段: 対称差動入力回路・カレントミラー負荷
2段目: ベース接地を兼ねたダーリントン・コンプリメンタリエミッタ接地回路
3段目: インバーテッドダーリントン&コンプリメンタリSEPP回路(重い負荷でもゲインが低下しない)

このオペアンプはデータシートの等価回路図に誤りがあります。1KHzで83-85dB程度のゲインがあるので、GB積はおよそ20MHzと考えられますが、2段目がミラー積分位相補償なので、大きな局部帰還がかかり、かなり低歪であると推測されます。1段増幅でGB積100MHzを狙う方法もありますが、このオペアンプやNJM2068のように、2段増幅でGB積を抑えつつ、大きな局部帰還でトータルの帰還量を稼ぐか、微妙な選択です。

Mark Levinson ML-29

MarkLevinson ML-29

GB積13.5MHz、DCゲイン63dB、Iib=1.5uA、Vio=不明、SRW=9.15V/us、PSRR10KHz=不明、Is=不明

弊社は様々なメーカーのアンプの回路図を保存しておりますが、半導体アンプの多くは、オペアンプと同等の回路構成になっています。1990年頃に発売された、このアンプも例外ではなく、差動2段+2段ダーリントンの回路構成はオペアンプそっくりです。ただし、差動アンプはいずれも、カスコードブートストラップが掛けられており、オペアンプよりゴージャスですね。バランス入力の為に、マイナス入力に無帰還のバッファアンプが導入されています。このためアンバランス入力より、バランス入力のほうが歪率が悪化します。

プリメインアンプ


全体: 2段増幅・ミラー積分位相補償+局部帰還・出力段は利得1のバッファ・動作電流は全て定電流回路で生成
初段: 差動入力回路・カスコードブートストラップ・抵抗負荷
2段目: 差動入力回路・カスコードブートストラップ・抵抗負荷
3段目: ダーリントン&コンプリメンタリSEPP回路

初段のテイル電流は0.86mAほど、ミラー積分位相補償は47pFなので、スルーレートは以外と低く9.15V/usしかありません。3段ダーリントン出力段ではないので、2段目には14mAもの電流を流しており、出力段の大きな入力バイアス電流(ベース電流)に耐えるよう設計しています。オペアンプと根本的に違うのは、2ステージの電圧増幅段はいずれも抵抗負荷であり、さらに大きな局部帰還が掛けられているため、DCゲインはLM6361などビデオアンプ並みに低く、雑音歪率を下げることはあまり考えられていません。抵抗負荷では、オープンループゲインが低下するだけでなく、それ自体、トランジスタにとっては重い負荷になるわけですから直線性が悪化し裸特性も悪くなります。当時は、このほうが音質がよくなると信じられていたわけですが、科学的根拠に基づいたものではなく、単なる主観にすぎませんでした。
尚このアンプは、入力および帰還回路にもコンデンサが入っており、DCアンプではありません。但し、いずれも低歪率のフィルムコンデンサが使われており、この部分によるカラフレーションは殆ど無視できます。パワーアンプでは高電圧を扱うので、ディスクリートが大半ですが、電圧の低いコントロールアンプの場合、ICオペアンプの導入は、かなり早い時期から積極的に進められています。

YAMAHA B6

YAMAHA B6

GB積85MHz程、DCゲイン121dB、Iib=10pA、Vio=不明、SRW=45.5V/us、PSRR10KHz=不明、Is=不明

GB積やスルーレート、DCゲインなどの諸特性が優秀です。当時のICオペアンプではこれほどの性能は実現できませんし、現在でもかなり大変です。B6は、HA5102/HA5104同様、上下対称回路の2段増幅で、ミラー積分+ラグリード位相補償、局部帰還を組み合わせています。このアンプはスタイリッシュなピラミッドデザインの中に、小型のX電源(スイッチング電源とは異なる)を搭載し、10Kg以下で200W+200Wを出すなど先進的ですが、アンプ本体の回路もとても先進的で、高速・広帯域・ハイゲインのディスクリートオペアンプに、大量のNFBを掛けています。クローズドループゲインは29dBですが1KHzの帰還量は70dBに達し、歪率、雑音、ダイナミックレンジなどはML-29の比では無いでしょう。しかもこのアンプはML-29よりも10年も前に製品化されているのです。X電源にしても、位相補償のテクニックにしても、高い技術力によって設計された、すばらしいアンプで、同社の歴史の中では、最高の傑作品だと思っています。

プリメインアンプ

初段

差動対称回路にカスコード・ブートストラップを掛けています。テイル電流は1.7mAと大きめですが、FETバッファを前段に配置させ、バイアス電流を遮断し、ダイレクトカップリングDCアンプとしています。

2段目

初段とは5.6対1のカレントミラー結合で、コンプリメンタリ・カスコードブートストラップ・エミッタ接地回路です。ML-29のような抵抗負荷とは異なり、普通のオペアンプ同様、能動負荷なので、直線性がよく、ゲインも高くできます。初段のスルーレートは大変大きので、スルーレートを決定しているのはこのステージです。

出力段

バイポーラトランジスタで、スピーカー負荷の影響を電圧増幅段(2段目)に伝えないためには、3段ダーリントンにする必要がありますが、セオリー通りB6の出力段は3段ダーリントンです。

AVアンプのパワーアンプ回路

AVアンプのパワーアンプ回路

大手家電メーカーのAVアンプのパワーアンプ回路図を拝見したことがあり、驚いたことにトランジスタ数はわずか7石でした。PR費用、会社の維持費、人件費、販売店利益、メーカー利益、開発費の償却などを考慮すると、アンプに許された原価は製品価格の1/4以下にしなければならず、その大半が筐体に割かれますから電子回路の原価は微々たるものです。ゆえにコストが厳しい価格帯では、抵抗1本もケチらないといけません。
にしても、回路設計上、駄目とされる技法を積み重ねているため、回路図は短期間で捨ててしまい、定数不明ゆえ、GB積やDCゲインも不明です。クローズドループゲインは確か40dB近くあり、帰還量は相当低く、性能は悲惨でしょう。電源も当然非安定でした。

オペアンプ

全体

2段増幅・ミラー積分位相補償・出力段は利得1のバッファ・動作電流は抵抗で決定。

初段

差動回路ですが、定電流回路を使っていないので、入力電圧・電源雑音で、動作電流が刻々と変動し、大きな歪と雑音が発生します。

2段目

抵抗負荷のエミッタ接地回路で、ゲインは低く帰還量が確保できません。負荷も重く、裸特性も良くありません。

出力段

2段ダーリントンなので、負荷の影響が2段目に及びます。ここはサンケンのワンチップ・ダーリントントランジスタを使っています。

LM3886(パワーアンプ)

LM3886(パワーアンプ)

GB積4MHz、DCゲイン110dB、Iib=0.2uA、Vio=1mV、SRW=19V/us、PSRR10KHz=56dB、Is=50mA

50W/8ΩワンチップパワーICです。デバイスコストは前述したAVアンプのパワーアンプ回路よりは高額になる可能性がありますが、実装コストや基板コストを考えれば、こちらのほうが安上がりになる可能性があり、性能は、格段に優れているでしょう。回路構成はμA741などのオーソドックスなオペアンプをパワーアンプ用にモディファイしたものです。データシートの回路図には初段の差動アンプ部分にミューティング回路が組み込まれていますが、複雑なので省略しました。

オペアンプ

全体

2段増幅・ミラー積分位相補償・出力段は利得1のバッファ・動作電流は全て定電流回路で生成。

初段

差動入力回路・能動負荷を導入・前段にバッファアンプを導入しているので大きなテイル電流を流していると推測される。

2段目

ダーリントン構成・能動負荷を導入・ミラー積分型位相補償(この局部帰還には出力段も含めている)。

3段目

2段ダーリントン準コンプリメンタリ回路

コストのかかるVIPプロセス(DIプロセスのナショナルセミコンダクター版)は導入できないので、出力段は準コンプリメンタリ回路で、性能面で不利です。しかし巧妙なのは、ミラー積分位相補償を出力からかけているので、出力段の性能が局部帰還により改善されます。この構造では、ミラー積分位相補償のループが大きいので、位相余裕を確保するため、差動アンプのエミッタに局部帰還抵抗を導入しています。通常のリスニングレベル1W/8ΩにおけるTHD+N(雑音歪率)は、20Hz0.007%、1KHz0.007%、20KHz0.016%です。

EL5176(完全差動)

EL5176(完全差動)

GB積250MHz、DCゲイン?dB、Iib=6uA、Vio=1.5mV、SRW=800V/us、PSRR10KHz=82dB、Is=7.5mA

オペアンプには、完全差動型と呼ばれるカテゴリがあります。主な用途としては、ケーブルのドライバレシーバー、そして差動A/Dコンバーターのドライバです。弊社のデータ収集ボードADXⅡ14-125M-PCIEXの125MHz差動A/Dコンバーターのドライバにも、完全差動オペアンプが使われています。主要な半導体ベンダからこのようなオペアンプがリリースされていますが、次のような共通の特徴を持っています。

差動入出力を備えている。
出力のコモン電圧を、差動入力とは独立して設定できる入力端子がある。


A/Dコンバータは殆どが単電源で、必ず指定のコモン電圧を中心に振幅させることになっています。これを既存のオペアンプで組むと複雑な回路になってしまうます。一方、完全差動型オペアンプは、出力コモン電圧が、信号入力と独立して設定できるので、簡単な回路で済みます。回路構成の一例を示します。実際にこのアンプは4相入力であり、もう一組の差動入力ペアが並列接続されていますが省略しています。4入力の完全差動オペアンプはインターシルぐらいで、リニアテクノロジ、アナログデバイセズ、ナショナルセミコンダクター、マキシムなどは皆、普通に2入力(差動入力)です。出力段のバッファアンプはブラックボックスなので推測で書いていますが、大差は無いでしょう。

完全差動オペアンプ

全体

1段増幅・ラグリード位相補償・出力段は利得1のバッファ・動作電流は全て定電流回路で生成

初段

差動入力・フォールデッドカスコード回路

2段目

差動バッファアンプ

コモン電圧部分を除けば、LM6361やAD826同様フォールデッドカスコード型の1段増幅の出力段を、もう一組追加して差動出力にしたに過ぎません。コモン電圧はVCOMで、これを出力電圧と、コモン電圧入力専用の差動アンプで比較します。この比較電流は、初段のフォールデッドカスコード段に印加されます。Q1,Q2はコモン電圧入力の差動アンプから見てもフォールデッドカスコード回路として機能しますが、Q1とQ2に対して差動演算するのではなく、Q1,Q2に同量の演算をしているので、出力電圧は、プラス側もマイナス側も同じように動きます。このVCOMに対するNFBは、出力から100%掛かっているので、VCOM=出力のコモン電圧となります。
当然VCOMに何らかの信号を印加すれば、演算増幅も可能です。ビデオ帯域のドライバを前提にしているのでGB積は250MHz、スルーレートは800V/μsもあります。このため高域まで歪率はとても低く、ゲイン1、20MHzで2次歪が-98dB、3次歪が-90dBに達します。もっともドミナントポールが高く、DCゲインが低いので(推測)、オーディオ帯域の歪率も、これと殆ど同じです。ゆえに、オーディオには向きません。

電流帰還オペアンプLT1227

LT1227電流帰還

ゲイン1に相当するGB積200MHz、DCゲイン72dB、Iib=300nA(+)/10000nA(-)、Vio=3mV、SRW=1100V/us、PSRR10KHz=58dB、Is=10mA
オープンループ・トランスインピーダンスDC108.6dB、1MHz?


電流帰還オペアンプAD812の+入力では、上下の定電流回路のミスマッチは、バイアス電流を増加させます。そこでLT1227など、多くの電流帰還オペアンプは、この部分のカレントミラー入力を異極性カレントミラー入力にしています。実質バッファアンプ入力(エミッタフォロワ)です。こうすることで、上下の定電流回路のミスマッチはトランジスタの1/hfeに圧縮され、レーザトリミングなどをしなくても十分な精度が出ます。但し歪率で言えば、エミッタフォロワを追加された形になるので、AD812のような古典的な電流帰還方式のほうが優れています。カレントミラーによる電流折り返し部分も、ウィルソンカレントミラーが採用され、ハイゲインを狙います。

オペアンプ

全体

電流帰還型1段増幅・出力段はバッファ・動作電流は全て定電流回路で生成

初段

異極性カレントミラー→ウィルソンカレントミラーによる電流帰還型1段増幅回路

2段目

インバーテッドダーリントン&コンプリメンタリSEPP回路

電流帰還型オペアンプの回路ではAD812のようなスタイルはマイナーで、LT1227のようなバッファー入力スタイル構成のほうがメジャーです。

電流帰還オペアンプHA5023

HA5023(電流帰還)

ゲイン1に相当するGB積125MHz、DCゲイン70dB、Iib=3000nA(+)/4000nA(-)、Vio=2mV、SRW=475V/us、PSRR10KHz=68dB、Is=7.5mA
オープンループ・トランスインピーダンスDC121dB、1MHz89dB


同じ回路構成でHA5020などがありますが、回路の特性を生かしていると思うのはHA5023と思います。異極性カレントミラー入力では、NPNとPNPのミスマッチでカレントミラー精度が落ちますが、HA5023では、カレントミラーのトランジスタとは異極性のトランジスタ(Q1-Q4)をダイオード接続で追加することで、この問題を解消しています。つまりカレントミラーで比較されるVbeは常にNPNとPNPを足したものになるので、NPNとPNPのミスマッチは関係なくなるのです。ウィルソンカレントミラー(Q6-Q10)のベース電流の補償回路を導入して、カレントミラーの電流コピー精度を向上しています。こうした回路技法の積み重ねでオープンループ・トランスインピーダンスは大変大きく、ハイゲインです。またCp1、Cp2によってミラー積分型の局部帰還が導入され、NFBのインピーダンスだけではなく内部回路によっても、ある程度の安定性を担保しています。このように随所に凝った回路構成を導入していますが、特筆すべきは、オフセットの温度係数が5μV/℃と低く、-入力バイアス電流が小さいなど、高速・広帯域の電流帰還型オペアンプの苦手とする、直流精度を大幅に改善している点です。

オペアンプ

全体

電流帰還型1段増幅・出力段はバッファ・動作電流は全て定電流回路で生成

初段

異極性カレントミラー→ウィルソンカレントミラーによる電流帰還型1段増幅回路

2段目

インバーテッドダーリントン&コンプリメンタリSEPP回路

ベース電流の補償はQ11のベースに流入する電流をQ12-Q13のカレントミラーでコピーしてQ8-10側のカレントミラーに伝達します。これは+電源ルール側の回路ですが、-側も基本は同じです。Q14はカスコードブートストラップトランジスタで、Q13のVCEをQ12と等しくさせます。

電流帰還オペアンプAD8011

AD8011(電流帰還)

ゲイン1に相当するGB積400MHz、DCゲイン70dB、Iib=5000nA、Vio=2mV、SRW=3500V/us、PSRR10KHz=55dB、Is=7.5mA
オープンループ・トランスインピーダンスDC120dB、1MHz99dB


AD8011はスペックだけで見ても次のような大きな特徴があります。

■ 1MHzにおけるオープンループ・トランスインピーダンスが99dB、広帯域でハイゲイン。
■ +入力と-入力の入力バイアス電流が揃っている。
■ 400MHzの帯域と、2mVのオフセット電圧・・AC(交流)性能と、DC(直流)性能が両立。
■ 3500V/usのスルーレートと、1mAの消費電流・・動特性と消費電流が両立している。

革新的なオペアンプです。電流帰還型オペアンプは通常1段増幅ですが、AD8011は特許技術による、2段増幅の電流帰還型オペアンプです。AD8011を無理やり、通常の1段増幅にした場合、次のような等価回路になります。
オペアンプ
1段目と2段目はカレントミラー結合なので、2段目には利得はなく、信号電流の方向を反転させる働きしかありません。このため、これまでの解説では、1段目と2段目を一体とみなし”初段”とまとめています。一方、実際のAD8011の等価回路は次の通りで、2段増幅です。

オペアンプ

1段目は定電流負荷なので、高い効率で電圧に変換されます。この信号電圧は、利得を有する2段目で更に増幅されますが、ここに安定性を確保して発振を防止するミラー積分型位相補償が追加されています。2段目の局部帰還の条件は固定なので、NFBのインピーダンスの影響が及ぶのは、1段目だけということになります。この2段増幅構成によって、オープンループ・トランスインピーダンスは大変大きく、1MHzでも99dBに達します。さらにミラー積分型位相補償による局部帰還量を積算すると、より大きな帰還量を確保していることになります。このためAD8011は1mAという消費電流からは信じられない、歪率性能を有しており、ゲイン2負荷1KΩにおける歪率は、1MHzで-85dB(2次)/-90dB(3次)、10MHzで-71dB(2次)/-70.5dB(3次)、20MHzで-61dB(2次)/-61dB(3次)です。ところでAD8011は、本当に電流帰還トポロジーをクリアしているのでしょうか。電流帰還トポロジーであるためには以下の3点をクリアしなければなりません。

①差動回路やフォールデッドカスコード回路など最大電流を制限するような回路がない。
②全段上下対称回路(全段コンプリメンタリ回路)により、大振幅状態で回路の半分がカットオフしても、
 B級動作に遷移して動作を継続可能。つまりAB級動作が可能。
③-入力のインピーダンス=NFBのインピーダンスの大小で安定性と利得帯域幅(GB積)をプログラムできる。

①②は回路構成を見ればクリアしているのは一目瞭然です。③はNFBのインピーダンスは初段の局部帰還に相当するので、安定性と利得帯域幅(GB積)をコントロールできます。但し、2段目の安定性と利得帯域幅はコントロールできないので、1段増幅の電流帰還型オペアンプより変化の幅は狭くなります。実際、AD812では、ゲイン1=145MHz、ゲイン2=100MHzと、ゲインを2倍にしても帯域は45%しか減少しないのに対し、AD8011では、ゲイン1=400MHz、ゲイン2=210MHzと、ゲインを2倍にすると帯域が約1/2になってしまい、この点で電圧帰還に近い傾向を示します。

全体

電流帰還型2段増幅・出力段はバッファ・動作電流は全て定電流回路で生成

初段

カレントミラー入力・コンプリメンタリ・エミッタ接地・定電流負荷

2段目

コンプリメンタリ・エミッタ接地・ミラー積分型位相補償

3段目

インバーテッドダーリントン&コンプリメンタリSEPP回路(※推論)

諸特性が突出しているもうひとつの要因は、電源電圧を+12.6Vに狭めている点です。トランジスタの耐圧は、±15V対応のオペアンプの1/3程度で済むので、設計の自由度が増すのです。同社は、このほかにもAD8004、AD8012など、2段増幅の電流帰還型オペアンプを多数リリースしています。いずれも定消費電流、高速、広帯域です。

電流帰還オペアンプTHS3201

THS3201(電流帰還)

ゲイン1に相当するGB積1800MHz、Iib=14μA(+)/13μA(-)、Vio=0.7mV、SRW=10500V/us、PSRR10KHz=70dB、Is=14mA
オープンループ・トランスインピーダンスDC110dB、1MHz106dB


電流帰還オペアンプとしては最も高速の部類に入り、ゲイン1では1.8GHz、ゲイン10でも520MHzの周波数レスポンスがあります。この超広帯域を生かすべく、スルーレートは10500V/usもあります。さらに強力な出力段によって100Ωの負荷も駆動できます。オペアンプの帯域をフルで使うことは普通ありませんが、通信やビデオ、高速データ収集では、帯域の1/4程度(※)くらいまでは実用になるので、ユニティゲインでは450MHz、ゲイン10では130MHzまでのシグナルを余裕でハンドリングできます。超高速性能を達成するため入力バイアス電流は途方もなく大きいのですが、このオペアンプの用途では、まず直流精度は必要なく、入力バイアス電流の巨大さは問題にはならないのです。

オペアンプ

全体

電流帰還型1段増幅・出力段はバッファ・動作電流は全て定電流回路で生成

初段

カレントミラー入力→カレントミラーによる電流折り返し

2段目

インバーテッド3段ダーリントン&コンプリメンタリSEPP回路

回路は下位モデルTHS3001からの推論です。遅延時間を短くするため、出力段は3段ではなく2段ダーリントンかもしれません。
※ダイナミックレンジが大きいオーディオ用途では、利得帯域幅の1/20000~1/100程度の信号をハンドリングするのが妥当で、1/100ではかなり性能が悪くなります。

MUSESはどうか

MUSESはどうか・・・とても残念な結果

JRCにオーディオ用オペアンプがあるので、データシートのスペックから重要項目を拾ってみると次のようになります。

MUSES01 (J-FET)
GB積3MHz、 DCゲイン105dB、Iib=200pA、Vio=0.8mV、SRW=12V/us、Is=8.5mA
MUSES02 (BJT)
GB積11MHz、DCゲイン110dB、Iib=100nA、Vio=0.3mV、SRW= 5V/us、Is=8mA
MUSES8820(BJT)
GB積11MHz、DCゲイン110dB、Iib=100nA、Vio=0.3mV、SRW=12V/us、Is=8mA
MUSES8920(J-FET)
GB積11MHz、DCゲイン135dB、Iib=5pA、 Vio=0.8mV、SRW= 5V/us、Is=8mA


残念ながら、アナログデバイセズやテキサスインスツルメンツ、ナショナルセミコンダクタ、リニアテクノロジの高性能オペアンプにとても勝てる性能ではありません。最先端の高性能オーディオオペアンプはGB積50MHz以上をマークしていますが、GB積わずか3MHzで高音質を名乗るなど、同社の意図がうかがい知れません。JRCは、数十年も前にNJM2068で、ミラー積分型位相補償の2段増幅といったオーソドックスな構造ながら27MHzという驚異的なGB積を達成しており、これと比較すると、とても性能の劣るオペアンプとしか言いようがありません。もしや、誰かにそそのかされて、ヒアリングを繰返してオペアンプを作るような愚策に走ったのだろうか。JRCは、日の丸を背負った半導体メーカーです。是非、AD812や、AD797を超えるような高速広帯域オペアンプの登場を期待したいところです。

PA98(超高電圧オペアンプ)

PA98(超高電圧オペアンプ)

(GB積=可変、DCゲイン111dB、Iib=5pA、Vio=0.5mV、SRW=可変、PSRR10KHz=50dB、Is=21mA)


最大電源電圧は450V(±225V)まで使える高耐圧オペアンプです。大変高価で、以前は、高耐圧ディスクリートトランジスタでオペアンプを組んだほうがはるかに安く作れましたが、ここ数年で殆どの個別半導体が入手困難になり、注目しているデバイスです。同社は他にも高耐圧品を多数ラインナップしていますが、ここでは代表的なPA98を解説します。高耐圧オペアンプは、単に耐圧だけを上げればよいというものではなく、スルーレートも大きくする必要があります。同じ周波数帯域を扱う場合、高電圧であるほどスルーレート(立ち上がりの勾配)が大きくなるからです。高スルーレートを実現するには、大きなテール電流と小さな位相補償コンデンサが不可欠です。そこでPA98は、①初段のFETのGmを低くしてテール電流を大きくする、②初段FETのソースに局部帰還抵抗を導入して、位相補償コンデンサの容量を下げるという2つの手法を使っています。これは高速FETオペアンプの常套手段です。

全体: 2段増幅・ミラー積分位相補償・出力段はバッファ・動作電流は全て定電流回路で生成


初段: FET差動入力回路・カスコードブートストラップ・カレントミラー負荷を導入


2段目: 能動負荷を導入・ミラー積分型位相補償


3段目: コンプリメンタリSEPP回路(重い負荷でもゲインが低下しない)


高耐圧のMOSFETを随所に使っています。初段はFETの耐圧不足をカバーするため、MOSFETをカスコードブートストラップ接続しています。2段目、出力段もMOS-FETを使っています。出力段のバイポーラトランジスタは過電流保護用です。ミラー積分位相補償用のC1、R1は外付けで、GB積を自由に設定できます。ユニティーゲインをギャランティするにはC1は68pF以上が必要で、このときのGB積は9MHz程、スルーレートは70V/usほどです。より高速動作にするには、入力レベルを絞り、クローズドループゲインを大きめにすることで、位相補償コンデンサC1を小さくできます。クローズドループゲインを30dBほどにすると、C1は3.3pFで済み、GB積は100MHz程、スルーレートは800V/usにも達します。

AD8027/8028(レールtoレール入出力オペアンプ)

AD8027/8028(レールTOレール入出力オペアンプ)

(GB積190MHz、DCゲイン108dB、Iib=5.5uA~-10.5uA、Vio=0.9mV、SRW=100V/us、PSRR10KHz=82dB、Is=6.5mA)

レールtoレール入出力、つまり電源ギリギリまで振幅させることができるオペアンプです。入力のヘッドルームはゼロ、出力のヘッドルームは0.1Vとほぼ電源を100%使い切ることが出来ます。回路構成はアクロバティックですが、安定しているせいか、多くの半導体メーカーが同じ回路構成のオペアンプをリリースしています。まるでNE5532のようですね。高速、広帯域でゲインも大きいので歪率は大変小さく、1MHz2Vp-pでの2次歪み、3次歪みは、ともに-93dBです。ただし後述するとおり、レールtoレール入出力オペアンプは使い方を誤ると大変なことになります。


全体 : 電圧帰還、2~3段増幅、全段上下対称回路、レールtoレール入出力、ミラー積分位相補償


初段 : 差動対称回路フォールデッドカスコードAB級動作


2段目: ダイアモンド差動対称回路、カレントミラー負荷


出力段: コンプリメンタリプッシュプル・エミッタ接地出力





入力

入力は差動プッシュプルですが、A級ではなく、AB級という変わった構造で、-電源レールに付近はPNP差動ペア、+電源レールに付近はNPN差動ペアが信号をハンドリングします。またこのクロスオーバーポイント付近ではNPNP差動ペアとPNP差動ペアが並列駆動します。これによって、PNPとNPNがそれぞれ得意とする電源レールでの入力を実現し、レールtoレール入力を実現します。ただしパワーアンプのAB級出力段同様、PNP、NPN、NPN+PNPの3つの状態で、Gm(相互コンダクタンス)が変動し、歪が発生します。また入力バイアス電流も変化するので注意が必要です。信号源抵抗が大きい場合、クロスオーバー付近で、バイアス電流の反転に伴う、オフセット電圧の反転などが発生するので、信号源抵抗は小さくすべきです。この点(歪率やバイアス電流)では、A級・差動プッシュプルのHA2839やPSUNIT6、HA5102/5104のほうが有利です。PNP差動ペア、NPN差動ペアを切り替えるのはLogicと記載されたブラックボックス(コンパレータ)です。コモンモード電圧が、Logic内基準電圧以下では、Qsはオフで、Iceの電流は全てPNP差動ペアに流れています。しかしコモンモードレールが一定以上になると、トランジスタQsをオンにします。するとIceの電流はQs→カレントミラー回路Qc1-Qc2を経由してNPN差動ペアを起動します。同時にPNP差動ペアには電流が流れなくなりシャットダウンします。差動ペアの4つのコレクタは全てフォールデッドカスコード回路に接続され、2つの平衡出力(A,B)にまとめられます。

2段目

いわゆるダイアモンド差動対称回路で、インバーテッドダーリントン接続とすることで、大きな入力インピーダンスを確保し、初段のゲインを高く維持します。差動コレクタ側はカレントミラーを用いて、高ゲイン、高CMRRを保ちます。GB積やスルーレートなどのスペック(高速・広帯域)を考えると、ReとCcで大きな局部帰還をかけ、2段目~3段目(出力段)のゲインは抑えているものと思われます。もしくは2-3段目のゲインを大きくして、初段のゲインを低くしている(初段のテイル電流を小さくする)可能性もあります。Ccは初段の負荷になると同時に、2段目の局部帰還にもなるので、これはミラー積分回路と一緒ですが、Ccは3段目(出力段)からもかけられており、低歪に寄与します。尚Ccnは初段の差動出力の容量負荷が平衡するために導入されたラグリード位相補償です。

3段目

コンプリメンタリ・エミッタフォロワでは、電源ロスが生じてレールtoレール出力にできないので、定番どおりコンプリメンタリ・エミッタ接地です。エミッタ接地なので、負荷に応じてゲインが変動し、それが容量性であったりすると安定性にも影響するので、レールtoレール出力の負荷は、ハイインピーダンスで受けたほうが高性能・高安定になります。容量負荷については特に弱く20pF程度で高域に3dBのピークが生じます。一方、抵抗負荷の場合、±5Vの電源電圧において、負荷0mA~60mAに変動させた場合のオープンループゲインは120dB~82dBまで変動します。レールtoレール入出力オペアンプは便利ですが、使い勝手を間違えると、発振したり、性能が極端に悪化しますから、注意しましょう。特に容量負荷などが接続される場合、抵抗でアイソレーションしておくべきです。この出力段は60mAの負荷を駆動でき、レールtoレールですから、電源電圧の低い、ヘッドホンアンプにも応用できそうです。

AD8041/8042/8044(レールtoレール出力オペアンプ)

AD8041/8042/8044(レールTOレール出力オペアンプ)

(GB積160MHz、DCゲイン95dB、Iib=2uA、Vio=7mV、SRW=160V/us、PSRR10KHz=77dB、Is=5.2mA)

レールtoレール出力オペアンプ。入力のヘッドルームは+側1V、-側0.2V、出力のヘッドルームは0.05Vです。入力はレールtoレールではないのですが、クローズドループゲインが1以上であれば、コモンモード電圧が電源レールに接近しない場合が多く、入力はレールtoレールである必要がありません。AD8027/8028の入力をPNP差動ペアだけにしたような回路構成ですが、この回路構成のオペアンプもまた多くの半導体ベンダーからリリースされています。このアンプもまた高速、広帯域にできるので、特に高域の歪率が小さく、1MHz2Vp-pでの歪率は-108dBとAD8027/8028より優れています。これは入力回路がAD8027/8028のAB級動作と違い、A級動作なので、クロスオーバー歪が発生しないためです。同じ回路構成でAD8051/8052/8054などもあり、殆ど同じような性能です。

全体 : 電圧帰還、2~3段増幅、レールtoレール出力、ミラー積分位相補償


初段 : 差動対称回路フォールデッドカスコードAB級動作


2段目: ダイアモンド差動対称回路、カレントミラー負荷


出力段: コンプリメンタリプッシュプル・エミッタ接地出力



入力

入力はシンプルなPNP差動フォールデッドカスコード型です。このため-側のヘッドルームが0.2Vであるのに対し、+側のヘッドルームは1Vあり、レールtoレールではありません。反面A級動作なので、低歪です。共通エミッタに局部帰還抵抗が導入され、DCゲインがAD8027/8028より低くなるものの、容量位相補償を減らしスルーレートを大きくする設計です。差動ペアの出力はフォールデッドカスコード回路に接続されます。

2段目

以降の回路はほぼAD8027/8028と同じです。2段目はダイアモンド差動対称回路で、インバーテッドダーリントン接続とすることで、大きな入力インピーダンスを確保し、初段のゲインを高く維持します。差動コレクタ側はカレントミラーを用いて、高ゲイン、高CMRRを保ちます。初段からみたミラー積分位相補償を軽減して、なおかつこのステージに十分な局部帰還がかかるよう、位相補償をCc1、Cc2に分割しています。これはCc1を軽減するとスルーレートが大きくできるためです。そのままでは安定性を確保できないのでCc2を用いています。CcnはCc1とバランスを取るための補償容量です。Cc1は3段目(出力段)からもかけられており、出力段の歪も除去してくるので低歪に寄与します。

3段目

ここもAD8027/8028と同じですコンプリメンタリ・エミッタ接地です。フォロワではないので、容量負荷は安定性に、抵抗負荷はDCゲインを左右し、出力インピーダンスは6.5KΩもありNFBをかけることが前提です。ちなみに容量負荷20pFで位相余裕は45度とギリギリです。(位相余裕45度以下になると発振の危険性が急増する)もしダンピング用に50Ωの抵抗をシリーズに入れると、位相余裕45度を維持できる限界は65pF程にまで改善します。この出力段は50mAの負荷を駆動でき、レールtoレール出力ですから、電源電圧の低い、ヘッドホンアンプにも応用できそうですね。

AD8018(電流帰還レールtoレール出力オペアンプ)

AD8018(電流帰還レールTOレールオペアンプ)

(ゲイン1に相当するGB積130MHz、Iib=8uA、Vio=15mV、SRW=300V/us、PSRR30KHz=62dB、Is=9mA、オープンループ・トランスインピーダンスDC122dB、1MHz78dB)

レールtoレール出力オペアンプ(例えばAD8041)の入力部をフォールデッドカスコード差動アンプから、電流帰還に変更したもの。入力のヘッドルームは1V、出力のヘッドルームは0.13Vで、出力に関して言えば電源を100%使い切ることが出来ます。出力段は大変強力で数Ωの負荷を駆動でき、100KHz10Ω6Vp-pにおける歪率は2次-92dBc、3次-85dBcです。出力短絡電流は1A、リニア出力できる電流は400mAで、ヘッドホンアンプに向いているように思えますが、このオペアンプの目的はxDSLラインドライバ、つまり通信用です。DCを扱わない用途なので、オーディオに応用する場合にはカップリングコンデンサかDCサーボが不可欠です。


全体 : 電流帰還、2~3段増幅、全段上下対称回路、レールtoレール出力、ミラー積分位相補償


初段 : 異極性カレントミラー→ウィルソンカレントミラーによる電流帰還型1段増幅回路


2段目: ダイアモンド差動対称回路、カレントミラー負荷


出力段: コンプリメンタリプッシュプル・エミッタ接地出力


入力

入力はLT1227のような一般的な電流帰還1段増幅ですが、カレントミラー回路を2段スタックして位相反転しています。ウィルソンカレントミラーではないのいで、オープンループ・トランスインピーダンスが低めです。

2段目

以降の回路はほぼAD8027/8028/8041/8042/8044と同じ、インバーテッドダーリントン接続のダイアモンド差動対称回路で、カレントミラー負荷も同じです。位相補償の掛け方も同じで、3段目からかけることで、低歪にします。初段が差動出力ではないので、片側の入力をアースしています。この部分も電流帰還トポロジなので、スルーレートを制限しません。総じて全体の電流帰還トポロジが維持できます。

3段目

回路図ではAD8027/8028/8041/8042/8044と同じコンプリメンタリ・エミッタ接地、レールtoレール出力ですが、大きなトランジスタが使われ400mAもの電流が流せます。通常大電流時のヘッドルームは減少しますが、AD8018は5Ω負荷で0.5Vものヘッドルームが維持できます。ちなみにAD8041では50Ω負荷でヘッドルーム1Vですから、AD8018は大変強力な出力段を有していることになります。と言ってもAD8018でスピーカーを駆動するのはちょっと難しいです。何故なら、AD8018は電源電圧が8Vまでですから。しかしヘッドホンアンプであれば、オーバースペックなほどです。


AD8531(CMOS レールtoレールオペアンプ)

AD8531(CMOSレールTOレールオペアンプ)

(GB積3MHz、DCゲイン98dB、Iib=5pA、Vio=25mV、SRW=5V/us、PSRR10KHz=50dB、Is=0.75mA)


レールtoレール入出力オペアンプの究極はCMOS(コンプリメンタリMOS-FET)タイプです。CMOSデバイスはオン抵抗が小さいので、バイポーラトランジスタよりも電源利用効率を高く出来るのです。このほかに、コンプリ素子が作りやすい、消費電力に優れるなど、ポータブルオーディオに最適な特徴を有します。従来CMOSデバイスは、雑音性能が良くないためオーディオには敬遠されてきましたが、近年雑音性能は飛躍的に向上し、オーディオでも高い性能を維持できるようになりました。特にデジタルオーディオ全盛の今日ではDACの出力レベルが高いので、必然的にS/Nを高めやすい環境になっています。ここで紹介するAD8531/8532は、全素子CMOSデバイスを使ったオペアンプで、弊社のポータブルUSB-DAC DSA-X47のDACバッファ兼ヘッドホンアンプに採用しております。ヘッドルームは入出力トータルで0.07V程度。AD8027/8028/8041/8042/8044/8012とは1桁低い消費電力なので、ポータブル用途に最適です。電圧雑音密度は45nV/√Hz、最大出力は250mAなのでヘッドホンをダイレクトに駆動できます。

S/Nを計算する

45nV/√Hzなどというと、AD797に比べ大きく感じるかもしれません。しかし実際のS/Nは優秀です。例えばDSA-X47はAD8532を、ユニティゲインで使っているので、出力の電圧雑音密度も同等の45nV/√Hzです。44.1KHzのデジタルソース再生時に必要な帯域22KHzの雑音電圧は45nV×√22KHz=6.75μVです。レールtoレール入出力なので、電源電圧3.3Vまでスイングできるので、この時のS/Nを計算するとA補正なしでも113.8dB(20Log(3.3V/6.75μV))に達します。A補正を行えば、120dBを超えるでしょうが、実際にはそれほどのS/Nではありません。電源のPSRRやDACそのもののS/Nに左右されるからです。このように、S/Nを左右するのは、CMOSオペアンプの電圧雑音密度ではなく、他の要因なのです。もはやCMOSオペアンプを躊躇する時代は過去になったのです。オフセット電圧、DCゲイン、GB積などの諸特性は非凡です。このためDSA-X47ではユニティゲインで使用し、1KHzで70dBの帰還量を確保しました。最大電源電圧は6V(±3V)ですが、レールtoレール入出力とあいまって、ポータブル用途に最適です。

オペアンプ


全体 : 全段上下対称回路・出力段フォロアなし2段増幅・動作電流は全て定電流回路で生成


初段 : 対称差動入力・フォールデッドカスコード回路・カレントミラー


出力段: コンプリメンタリプッシュプル・カレントミラー出力


回路はレールtoレール入出力を実現するためアグレッシブな全段上下対称回路で、出力段はフォロワ(バッファ)ではなく、オープンドレイン出力です。初段は対称差動入力にフォールデッドカスコード回路を組み合わせていますが、この部分下側を定電流ではなく、カレントミラーとすることで、CMRRを高めています。出力段はカレントミラ回路の共通ゲートに信号を印加する方法です。共通ゲート部分にMOSFETがあるので分かりづらいですが、これはベース電流補償型カレントミラー(↓)と同等の回路で、このMOSFETのソース~ドレイン間のパスに、フォールデッドカスコード回路からの電流を通過させる仕組みです。

カレントミラ1次側の定電流回路の電流はそのまま出力段のアイドル電流になります。この部分(出力段)がフォロワではないので、ゲインを有することになり、その値は負荷抵抗によって変動します。負荷抵抗の大小は、オープンループゲインの大小に連動するので、安定性などにも影響があります。この点は慎重な設計が不可欠ですが、もともとGB積を抑えた設計なので、発振には強いほうです。