補足説明(ホーン型スピーカーの歪)

ホーン型スピーカーの2次歪について

ホーン型スピーカーに対する評価

ホーン型スピーカーには、浸透力?があるとか、管弦楽器が得意とか、トランジェントがいいとか、そういう肯定的意見もあれば、独特のクセがある、ホーン臭さ、ホーンが鳴くとか、否定的な意見もあります。ドライバフェーズプラグフェージングイコライザコンプレッションドライバホーンスピーカー究極音質ひずみ歪能率音質

ホーンのメリットとデメリットをざっくりと

長所

  • 能率(効率)がいいので、アンプのパワーが小さくて済みアンプの歪率で有利
  • 同じ理由から磁器回路やダイアフラムへの負担が小さく、これらから発生する歪が小さくできる
  • 最大音圧が高い
  • 垂直指向性が狭く、水平指向性が広いので、距離減衰が小さい
  • 垂直指向性が狭く、水平指向性が広いので、中高域の床天井反射の影響が小さい

短所

  • ホーンはハイカットフィルターであり低域の周波数特性を制限する
    • 受け持ち周波数帯域の最大波長よりホーンが短いと周波数特性が悪化
    • 主にレスポンスの低下とディップ(ギブス現象)の発生(※4)
  • 低域の周波数特性を伸ばすには大型のホーンが必要
  • ホーンの広がり方が急変すると、反射が発生
    • 過度特性が乱れる
    • 反射によって進行波と反射波が干渉し周波数特性の凹凸が発生(※4)
  • ホーンの強度、内部損失が低いと共鳴が生じる(※1)
  • 部品点数が多いのでコストが高い(同じコストなら磁気回路や筐体などがチープになる)
  • 最終的な歪は、コーンやドームより多く、特に2次歪が多い(※2)
  • 能率が高いので、アンプの残留ノイズが耳につきやすい

一長一短

  • トランジェント性能(※3)

(※1 十分共鳴が抑えられれば問題にならない)
(※2 測定データに基づく、歪の発生原因は後述)
(※3 必要振幅は減るが、フェーズプラグと振動板の間が狭く、空気の粘性抵抗が急増、振動板が動きにくくなる)

能率が高く、周波数レンジが狭いのがホーン型の特徴です。現実的なサイズを考えると低域は700-800Hzが限界でしょうから、ホーン型スピーカーは、スコーカーとツイーターへの応用が基本です。スコーカーとして300Hz程度まで引っ張れるといいのですが、ホーン長は1mに達し、現実的ではありません。また能率が高いので小型のウーハーでは音圧が釣り合いません。従って大型ウーハーが必要ですが、大型のウーハーで、ホーン型の受け持ち帯域の下限(800Hz~1.5KHz程度)までカバーすると指向性や歪率が悪化します。なのでコルゲーションなどを付加して、有効振動面積を可変にしたりしますが、本質的にはミッドバスを入れて4ウェイにしたり、ダブルウーハーにして口径を抑えるほうが無理がないでしょう。
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ホーン型スピーカーの構造と目的

ホーン型とドーム型はドライバ部分はほぼ同等

まず最初に、ホーン型スピーカーの構造を説明したいと思います。一般的にコンプレッションドライバーを使用するホーン型スピーカーは、多少の違いはありますが、基本的に下図の構造です。
ホーン

ドライバ
①マグネット、②ポールピース、③トッププレートで磁気回路を構成し、④のダイアフラム(振動板)を駆動します。②ポールピースと③トッププレートの間には④ダイアフラムと一体になった、ボイスコイルがあり、④ダイアフラムはその周辺のリング状のエッジで支えられています。また④ダイアフラム背面は、⑦チャンバがあり、大きな空間になっており吸音材が充填されています。ここまでの構造はドーム型スピーカー(以下)と同じです。(ドーム凹んでいる方向が違うだけ)
音圧
ドライバ
ホーン

ホーン型固有のパート

そして⑤のフェーズプラグでダイアフラムの前面の大部分を塞いでしまい、⑥ホーンを装着させればホーン型スピーカーの完成です。つまりホーン型スピーカーは、逆ドームスピーカーの前に、⑤フェーズプラグ(フェイズドプラグ)と⑥ホーンを装着しているわけです。これら(⑤⑦)の目的はダイアフラムに負荷をかける(平たく言うと空気の逃げ場をなくす)ためです。負荷をかけることで、ダイアフラムの運動エネルギーを、音響エネルギーに変換する、変換効率が向上するのです。ホーンもフェーズプラグも無い状態のドーム型スピーカーだと、ダイアフラムが前後に動いても、ダイアフラム周辺の空気の大半が逃げてしまい(移動する)、音響エネルギー(粗密波)に変換されるのはごく一部です。これはダイアフラムに空気の負荷がかかっていないためです。
ホーン

効率(能率)の向上

そこでホーン型スピーカーでは、フェーズプラグで、より小さな空気室にダイアフラムを閉じ込めて、空気の逃げ場をなくすことで、ダイアフラムの運動エネルギーを効率よく音響エネルギーに変換します。その音響エネルギーを、フェーズプラグに開けられたスリットとホーンの2つの音道でリスニングルームに結合します。音道を徐々に拡大していくことで、急激な負荷変動が発生するのを防いでいますが、完全なホーンは存在しないため、ホーン開口部やフェーズプラグとホーンの継ぎ目などで反射が発生し、周波数特性を乱します。但し現在のホーン型スピーカーの多くが、大型でエクスポネンシャル型のカーブを採用しているので、殆ど問題ないレベルです。結果、小さなダイアフラムの動きでも、大きな音圧を得られるようになります。実際、ドーム型やコーン型の小口径スコーカーやツイータでは1W印加して90dB/1mの音圧を得るのがやっとですが、ホーン型スピーカーでは110dB程度になり、変換効率は約10倍です。また最大音圧も大きく出来るので、大きな会場で使用するスピーカーとしてホーン型ミッドレンジやツイーターを使うことは一般的です。
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歪は減りそうで減らない

ホーン型は低歪というが本当なのか

同じ音圧を得るなら、ダイアフラムの動き(振動振幅)が小さく、ボイスコイル電流も小さくて済むホーン型は、機械歪と電磁気的歪(磁気歪)は小さいわけですから、容易に低歪率を実現できそうです。しかし実際はそうなりません。ドライバのデータシートは110dB程度の音圧で測っているので、歪が多いだけだ。一般的なダイレクトラジエータ型のスピーカーの1W印加時の音圧90dB程度に落とせば、ホーンが逆転する・・・はずだ。そうお思いの方もいるでしょう。しかし・・・コンプレッションドライバーを使用するホーン型スピーカーの歪は音圧を下げてもあまり減少せず、ドーム型やコーン型と音圧を揃えて測定しても、ホーン型スピーカーのほうが歪率で劣勢であることは多いのです。期待される歪率軽減の論理をまとめると以下の通りです。

  • 能率が良い→駆動電流が小さいので、電磁気的歪が軽減される(ボイスコイルやマグネット)
  • 能率が良い→振動振幅が小さいので、機械的歪が軽減される(サスペンション)
  • データシートでは歪率が悪いが、1W印加時の値なので、ドーム型やコーン型と同じ90dB/m程度で計れば歪率は逆転するはずだ。

ドライバ

ホーン型は歪の出方が全く異なる

ダイレクトラジエータ型

コーン型やドーム型は90dBの音圧の場合、歪の最低ポイントが-60dB~-90dBに達する低歪領域の中に、歪率が-50dB程度になる高歪領域が所々現れます。高性能なものだと高歪領域は-60dB程度に抑えられ、逆に安価なものだと、高歪領域は-40dBに達し、低歪領域も悪化します。そして、歪は2次歪と3次歪が交互にやってきます。これは分割振動や、軸非対称振動が特定の周波数に現れるためです。
歪

ホーン型

ホーン型は、歪率が全域でー定的な傾向を示し、コーンやドームに比べ歪率の凹凸は少ないです。また高域ほど歪が増大する傾向のものもあります。肝心の歪率は90dBの音圧で-60dB~-35dB程度と平均的に見ると、コーンやドームに劣ります。特徴的なのは、2次歪が、3次歪よりも大きい点で、殆どのホーン型で共通して見られる現象です。原理的に能率が高いホーン型では、機械歪と磁気歪は小さいわけですから、この2次歪が大きい特徴的な歪は、別の原因で発生しているに他なりません。この歪は一体どこから生じるものでしょうか。以下はホーン型ツイーターを使用した20cm同軸型2ウェイスピーカーの周波数特性と歪率のデータで、上の線が周波数特性、下の2つの線が2次歪と3次歪みです。

歪が急増している赤枠で囲った部分が、ホーン型ツイーターの受け持ち領域です。100Hz以下はエンクロージャーの影響なので、100Hz以上の帯域で歪率を比較すると。
音圧

  • LF:最低歪率-65dB、最大歪率-50dB(100Hz~5KHz)
  • HF:最低歪率-55dB、最大歪率-35dB(5KHz~)

フェージングイコライザ
と10-15dBほどホーン型ツイーターの歪率のほうが大きい結果になっています。コーンやドームと同等音圧で測定すれば、ホーン型は歪は減るはずなのに、実際には歪が増えるという結果になってしまいました。上は一例ですが、もっと大型の15インチウーハーのスピーカー、更に15インチダブルウーハーのスピーカーで測定しても、コーン型の受け持ち帯域は低歪であるが、ホーンの受け持ち帯域は歪が大きいという傾向は共通でした。電磁気歪や機械的歪が減っているのに、それを大きく上回る歪の原因とは一体何なのでしょう。
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ホーン型スピーカー固有の歪の正体

ダイアフラム前面の小さな空間では、空気の粘性の非線形が無視できない

結論から言うと、これらの歪の正体は、空気の粘性抵抗の非線形によるものです。まずダイアフラムとフェーズプラグの間隙は1mmにも満たない、大変小さな空気室で、音圧は140~150dBに達します。一般に大気中の音圧と線形性は大きく3つの段階に分けられます。直線性を保てる音圧は120dBまでで、170dBを超えるともはや空気は流体の特性を示します。そしてコンプレッションドライバ内部では、120-170dBの非線形な伝搬領域が使われています。120dBを超えると急激に歪が増えるわけではないのですが、140-150dBの音圧にもなると大きな歪が発生し、音質を悪化させます。
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  • 0-120dB/SPL 線形な伝搬が可能 (線形音響学)
  • 120-170dB/SPL 弱い非線形を有する伝搬 (非線形音響学)
  • 170db/SPL以上  強い非線形を有する伝搬 (流体力学)

ホーン

温度による非線形

例えば150dB(0.63KPa)は、標準大気圧の約0.62%の変化であり、粗密波の密の部分は温度が上昇します。空気室の奥行きは波長に比べ大変小さいので、粗の部分と、密の部分は、空気室内で同居しませんから、空気室全体の温度が上下を繰返すわけです。そして高温では空気の粘性抵抗が非線形に急増します。(さらに音速も変化しますが、ここでは割愛します) よってダイアフラムがpop状態(前に出る)ではブレーキがかかります。逆にpush状態(後ろに凹む)では動きやすくなります。一方、ダイアフラムの背面はドーム型やコーン型スコーカーと同じように大きなチェンバ(空間)になっているのでので、こうした現象は軽微であり、前後非対称なので3次数歪ではなく2次歪が大きくなるのです。
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急激に圧縮された空気は、すぐには戻れない

大音圧で急激(短時間)に圧縮された空気は、圧縮源を開放しても、すぐには元に戻れない性質があります。ホーン型スピーカーの場合、スルーレートの立ち上がりと立ち下がりに非対称が生じてしまい、これもまた2次歪増大の要因の一つと考えられます。逆に、この非線形性を利用することで、超音波を使ったパラメトリックスピーカーが成立します。パラメトリックスピーカーは、搬送波の超音波に、音声信号をAM変調かけて使用しますが、超音波は、空気の非線形性でエンベーローブ検波されて消失し、音声信号のみが復元されます。頭が潰れて、立ち下がりが長くなるので、歪を誇張すると以下のようになるのです。(赤=源信号、青=ホーン型スピーカーの出力)
フェーズプラグ歪フェージングイコライザ音圧ドライバ粘性振動板非線形

ホーンコンプレッションドライバフェーズプラグ歪フェージングイコライザ

ホーン型スピーカーはダイアフラム付近の音圧を下げるべき

2次歪は音質には良いとされる方もおり、趣味嗜好としては、それもまた一つのテイストです。しかし低歪率のノンカラフレーションのスピーカーを目指すならば、ホーン型スピーカーは、フェイズプラグなどを外して、ダイアフラム直前の音圧を抑えるべきです。指向性と周波数特性だけを調整するだけなら、ダイアフラム付近を流線型にするなど過度な音圧を避けるべきだと考えます。(ノーズコーン形状ではなくラグビーボール形状)こうなると、もはやコンプレッションドライバではないのですが、以前はそういうスピーカーもありました。なお一般的なコンプレッションドライバはフェーズプラグだけを外すというのは難しいです。ポールピースと一体になっているので、分解は困難で無理して分解すると磁束密度などスピーカー特性が変化するのでお勧めできません。
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位相特性

ホーン型スピーカーで気になる点がもう一つあります。それは中高域のコンプレッションドライバーのダイアフラム位置が、ウーハーの位置より後方にずれていて、しかも受け持ち帯域が高い周波数である点にあります。たとえば奥行き34cmのホーンで1KHzで1サイクル=1msec=360度の位相遅れが生じてしまいます。この点を解消するにはALTEC A7やA5のようにウーハー側にもショートホーンを装着するか、マルチアンプにして、チャンネルデバイダで、ウーハーにディレイを設定することなどが考えられます。

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それでもホーンにしなければならない理由

ホーン型スピーカーの歴史は大変長く、スピーカー草創期から存在します。ホーン型スピーカーが生まれた理由は大きく2つあります。

アンプの出力を大きく出来なかった

昔の真空管アンプでは10Wを出すのもやっとです。このような非力なアンプでシアター用の音響システムを組むには、スピーカーの能率を上げなければなりません。そこで低域にもショートホーンを追加した、シアター用の超大型スピーカーが開発され、能率は110dBを超えるものもあり、10Wのアンプでも30m空間を90dB以上の音圧で満たすことが出来ます。こうした用途では、音質よりも、まず十分な音量を稼ぐことが最優先されます。

シアタやコンサート用途に必要な音圧は大変大きい

広い空間に十分な音圧を得るには必然的に、能率のよいスピーカーが要求されます。例えば50mの空間で100dBの音圧を確保しようとすると

  • 能率90dBのスピーカーに必要なパワー 25000W
  • 能率110dBのスピーカーに必要なパワー 250W


となり、現実的に家庭用の90dB/w/mのブクシェルフスピーカーでこのような使用方法自体不可能であることが分かります。現実にはもう少しスピーカー増やすことで、低パワーでサービスエリアを広げる工夫がなされますが、スピーカーを増やすと、スピーカー同士の干渉により周波数特性の凹凸が生じます。

空気の粘性による歪はホーンだけの問題ではない

110dBのスピーカー、250W印加時のスピーカー5cmの音圧は160dBに達しています。コンプレッションドライバ内部、ダイアフラム直前の音圧は190dB近くに達していて、壮絶な歪が発生していますが、スピーカーから放射された直後の音圧160dBでもまだ、空気の非線形伝達領域に達していることが分かります。このことはホーン型ではない直接放射型の家庭用スピーカーでも同じことが言えていて、スピーカーとリスナの距離が遠いと同じ現象が生じることがあり歪が増えるので注意すべきです。以下はリスナ位置の音圧を100dBに保った場合で、リスナとスピーカーの距離を変化させた場合の、スピーカー直前の音圧です。(アンプ出力は90dB/w/mの場合)

  • 5m100dB スピーカー直前140dB (アンプ250W)
  • 4m100dB スピーカー直前138dB (アンプ160W)
  • 3m100dB スピーカー直前136dB (アンプ90W)
  • 2m100dB スピーカー直前132dB (アンプ40W)
  • 1m100dB スピーカー直前126dB (アンプ10W)


スピーカー直前の音圧はいずれも非線形領域に入っています。しかしその音圧は距離に比例して大きくなるので、距離が遠いほど歪が大きくなります。この問題を解消するにはスピーカーを近くで聞く、ニアフィールドリスニングが理にかなっていることが分かります。しかし1mの距離で聞けるスピーカーは小型スピーカーでは歪も多いので、現実的には2mぐらいがベストではないかと思います。5mもの距離をとってオーディオを楽しむことは何の益もないと思います。実際のリスニングルームでは直接音以外の割合が多く、上のように単純ではなく、スピーカー直前の音圧はもう少し下げられると思います。ただし間接音が増えすぎると音質が悲惨になるので、適度な吸音は必要です。
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エンクロージャー形式の違いによる群遅延

ホーン型スピーカーの位相遅れの話が出ましたので、エンクロージャー形式の違いによる位相遅れ(群遅延)についても解説したいと思います。密閉型を含め、どのようなスピーカーでも低域では群遅延が発生しています。この群遅延は、アンプやDACにおける群遅延(位相歪)とは、桁違いの大きなもので、オーディオシステムの位相特性を左右しますから、高音質再生を目指すなら是非とも知っておく必要があります。
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バックロードホーン

ホーンと直接音(前面)のクロスオーバー周波数は、だいたい150-200Hz、この周波数以下の中低域全体がホーンの長さだけ遅延します。例えば3.4mのホーンだと遅延時間10msecで、100Hzで1サイクル360度の位相遅れが生じてしまいます。クロスオーバー周波数で群遅延に段差ができるので、高音(高調波)が先に、低音(基音)が後から追いかける、自然界ではありえない音になります。また空気室やホーンの根元部分に十分な吸音を入れないと、ホーンから位相の遅れた中高域が漏れ出し、直接音と干渉して周波数特性を乱します。(これもギブス現象の一つ)バックロードホーンスピーカーの多くが吸音材が不足し、直接音との干渉が懸念されます。150Hz程度を吸音するには空気室とホーンスロート部分を吸音材で埋め尽くすぐらいしないと中低域は減衰してくれません。クロスオーバー周波数付近ではホーンと直接音の干渉は不可避なので、この帯域の周波数特性の乱れは仕方ありません。
ホーン

バスレフ型・ケルトン型

バックロードホーンのように、全帯域で遅延するのではなく、ポートの共振周波数付近だけで遅延が生じます。このため音質への悪影響はバックロードホーンより少なく出来ます。エンクロージャーサイズとポートの共振周波数、ユニットのTsパラメーターで、周波数特性と位相特性が大きく変わります。よくできたものでは共振周波数で7~15msec程度、チューニングがミスマッチしている場合、20~40msecの遅延になります。共振周波数を50Hz以下にできれば、70Hz~200Hzの中低域の群遅延を、小さくできるのが利点です。バスレフにはTsパラメーターの適しているユニットがあり、fsが40Hz以下と低く、Qtsが0.25~0.4、振動板はやや重めで、これを駆動できる強い磁気回路も必要です。これを外れると、周波数特性がうねったり、群遅延が大きくなります。また振動板が軽いと箱が巨大化します。fsが高いのは最も駄目で、共振周波数を高めなければならず、群遅延の影響が、高域にシフトして、位相遅れが増大します。(同じ群遅延なら周波数が高いほど位相遅れが大きくなる為) 尚、ダブルバスレフ型はより大きな遅延が懸念されます。
バックロード密閉バックロード密閉バックロード密閉バックロード密閉

密閉型

遅延が全く無いわけではなく、エンクロージャーの空気バネの影響で、遅延が生じます。遅延時間は3~6msec程度で、これもチューニングがミスマッチしている場合、大きくなります。密閉型は低音が出にくいのですが、Qts0.5程度と大きめの(磁気回路の弱い)ユニットを使用することで、バスレフに肉薄する周波数特性を実現可能です。以下はUSHER 8836A(Qts0.24/fs=25Hz)を使ったシミュレーションで、青色がバスレフ型(15.6L/42.9Hz)、黄色が密閉型(11.4L)です。周波数特性はバスレフのほうが30Hz-200Hzの広範囲で有利で、群遅延特性は逆に密閉型が有利です。
バックロード密閉バックロード密閉バックロード密閉バックロード密閉

バックロード密閉バックロード密閉バックロード密閉バックロード密閉

バックロード密閉バックロード密閉バックロード密閉バックロード密閉
そこで密閉型を、Beyma 8WOOFER/P V2(Qts=0.5/fs=35Hz)に変更したものが赤色のグラフで、周波数特性は大幅に改善しています。群遅延特性は若干悪化していますが、それでもバスレフよりは有利です。(密閉は仕上がりのQcを0.7にしている)密閉ウーハー+大口径ハードドームスコーカーが流行した80-90年代のスピーカーは、ミッドレンジに比べ以外とウーハーのマグネットが小さいものが多く、その理由は、密閉型でありながら、低音を出すためだと考えられます。